恋の病

『あ。やっぱり此処に居たんだ。』

放課後の屋上は静かで、緩やかな風が吹いていた。
柵にもたれ、黄昏ている彼に私は声をかけた。

「絢那さん?どうかしたんですか?昶君なら……」

『いいの。私は白銀に会いに来たから。』

遮るように言うと、彼は「そうですか。」と呟いた。

『考え事?』

「えぇ、少し……。」

普通は見えない筈の彼が何故、なんの力もない私に見えるのか。
理由は不明である。
ぼやけていたものがはっきりと見えるようになった。
そう、私はただ見えるだけなのだ。

『へぇー。私には関係ない方で?
そうじゃなかったら話だけでもいいから聞かせて?』

影とか光とか、そんなことに首を突っ込むつもりはない。
もし、こんな私でも誰かの役に立てるのならそれで良かったから。

彼は少し考え、ゆっくりと話し始めた。
どうやら、そっちの話ではなさそうだ。


「絢那さん…。私はどうやらおかしくなってしまったようです………。」

『は?何?頭が?』

「いえ、そうじゃなくて・・・。」

『あー、ごめん。』

その言葉がどんな意味を持っていたかなんて即座に判断する事が出来なかった。
私は、彼の隣りに腰をおろし、顔をのぞき込むように聞いてみた。

『どんな感じに変なの?それが変な事じゃないかもしれないよ?』

「そうなんでしょうか……?けど、こんなに胸が苦しくなる事なんてなかったのに…。」

「胸が苦しくなる」そう聞いて私はふと、ある事が頭を過ぎった。

『まさか誰かに恋したとかだったりして。
ほらさ、よく恋すると胸が苦しくなるって言うじゃん?』

「恋ですか…。………そうかもしれませんね。」

『マジでか。あら〜。』

冗談で言ったつもりだったが、見事的中。
そして、針が刺さったかのように胸が痛んだような感覚が襲ってきた。

私は白銀が好きだ。きっとそのせい。


『…………………。』

「……絢那さん?どうかしたんですか?」

『え?あ、うん。大丈夫。なんでもないよ。』


それが誰とはわからないが、今私に出来ることは彼を元気にする事だ。
好きな人の暗い顔なんて誰だって見たくないだろう。

『じゃぁ、いっそのことさ、その人に自分の気持ちを伝えてちゃえば?
スッキリ心が晴れちゃったりとかするかもよ?』

どんどん重くなっていく心を無理矢理の笑顔でなんとか支える。
この場から、立ち去ってしまいたいのを必至に耐えながらも、彼に笑顔を向ける。

「そう、ですよね……。いつまでもこうしてる訳にもいきませんし。」


『うん。いってらっしゃいな!』


早く、行ってくれ。お願いだから。
もう、耐え切れなくなる前に。


『………白銀?行かないの?どうかした?』

「行く?何処にですか?今、目の前に居るのですから何処にも行かないですよ。」


柔らかな笑顔で返される。
目の前?
私は、辺りをきょろきょろと見回した。
しかし、私と彼以外には誰も見当たらない。

「ふふふ。まだ気付かないんですか?」

『だって、多分私じゃないし……。』

私の様な見える事を除いて、普通極まりない人が人に好かれるとは思えない。

「本当に貴女という人はかわいいですね。愛してますよ、絢那さん。」

『は?えーと、ドッキリ?そんなことある訳ないじゃん。そうか!夢だ!こんなに良い事が現実な訳な、い………。』


いつの間にか、すぐ目の前に白銀の顔があった。
息がかかりそうな程近い。

『白、銀……。』

抱き締められて、触れるだけのキス。

「夢なんかじゃないですよ。良かった、貴女も同じ気持ちで。」

強く抱き締められているため、少し息が苦しくなってきたが、それが現実だと私に思い知らせているようで嬉しかった。


『私なんか好きになってもどうしようも無いのに。』

「私は絢那さんが良いんです。」



心のどこかで夢でも構わないと思った。
けど、現実の方がやっぱり嬉しい。

人間とシンは違う。
でも、心は同じひとだと私は思う。

この先がどうとか関係ない。

今は少しでも長くこの人に触れていたい。


end.

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