境界線

「すぅ…すぅ…」


絢那は屯所にくるとよく日向で昼寝をしている。
この日もまた、心地よさそうな寝顔でお昼寝中だった。

そして俺はそばに座って一緒に昼寝。

いつもは気づけば山南さんあたりが俺たちに薄手の布団を掛けてくれているか
新八っつあんと佐之さんになんやかんやで起こされるか…

でも、このときはいつもと違った。

「ん・・・・?」

「あ、起きた?おはよ、平助。」

初めて絢那が先に起きていた。

「珍しいな、先に起きてるなんて」

目をこすりながら小さく欠伸をして俺が尋ねるとあいつは
自慢げに笑いながら大きく頷いて見せる。

…可愛すぎるだろ

思わず俺は絢那を抱きしめる。
俺よりも小さい体は腕の中に納まり
俺を見上げて小さく笑う。

・・・・・こんな小さい幸せがたとえどんな辛い人生の中でも
ときどき現れて俺を癒してくれる。
そう思っていた。



月日が流れ俺は羅刹になった。

羅刹となった今、あの日々の幸せはもう現れることなど無い。

温かい日差しは俺の体を蝕んで、苦痛を呼び起こすんだ。
もう、お日様の下で絢那とお昼寝は出来ない。



絢那は相変わらずお日様の下で寝ていた。

俺は日陰で寝顔を眺める。

そばに行きたい。
でも、日向が怖い…。
影と日向の線のぎりぎりまで歩く。

あと一歩が出ない。

あと一歩で絢那に触れられるのに…

「へいすけ…?」

絢那が目を覚ました。
起き上がって眠そうに眼をこすり、
小さく欠伸をする。

…可愛い…触れたい…

もどかしい想いが膨らんでいく。

俯く俺をお日様の香りが包んだ。

「絢那…?」

「なにそんなに辛気臭い顔してんの?私が居るんだから少しは笑ってくれてもいいんじゃない?」

驚いて顔を上げると困ったように笑う絢那が居て
俺はまた思わずぎゅっと抱きしめる。

「ごめん…」

「ねぇ、平助。私、平助のこと大好きだよ。」

絢那の声が耳元で囁いた。

「だから、平助の為になんでもする。これからは日陰で一緒にお昼寝しよ?」

俺を見て絢那はまた笑う。
俺を苦しめないお日様だって思った。

「おう!」




それからの俺は羅刹化が進みほとんど昼は寝て夜に活動するようになってしまった。
でも絢那は昼夜逆転生活の俺のそばにいて
夜でも明るい日向を心の中に作ってくれた。

辛くないかって聞いたら笑顔で「私も平助とお昼寝してるから大丈夫」
って言うからつい甘えてしまう。

よく見てみると俺の人生の中に小さな幸せはいっぱいある事に最近気付いた。

絢那がいることそれだけが幸せって事にも気付いた。

あのときに感じていた影と日向の境界線はもうなくなっていると思う。

こんな体になってもあのお日様に触れられるから。



なぁ、絢那…

俺もお前が大好きだから

お前のためになんだってやってやるよ。


でも、もしこの体が羅刹の毒から救われたら

本物のおっきい温かいお日様のしたで

お前を抱きしめて一緒に昼寝したい。


俺って案外欲張りかもな。

二つのお日様、どっちも欲しいから。


それでもこんな俺をお前は好きでいてくれる。


ありがとう。


end.
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