咲う(わらう)

「おはようございます。絢那」

「…おはようございます。山南さん…」

目を覚ますと目の前に彼がいた。
ちなみに今は朝じゃなくて真夜中。

「あの…何かご用ですか?」

「用がないのに貴方の元へ
来てはいけませんか?」

「いや…いいんですけど…」

いつもは私から彼の元へ行くため
どこか変な感じがしたけれど
たまにはこういうのもいいか
と思いながら私は体を起こした。

「実は絢那に用があってきたんですよ」

「は、はぁ…」

さっき用が無い
みたいなこと言ってたような…

「外へ来ていただけませんか?」

「あ、はい。わかりました」

私の返事を聞くと
「外は寒いですから」
と彼は自分の羽織を私に掛けてくれた。

羽織からの微かな温もりを
感じながら彼に手を引かれ外に出た。

外に出ると満月と桜が私たちを迎えた。

彼は繋いだ手を離し桜のそばへ
歩いていくとこちらを振り返り
微笑みながら私に手を差し伸べた。

「・・・・・・」

満開の桜は満月の光でさらに
美しく咲き誇っていて

そこに立ち微笑む彼はとても綺麗で
艶やかで別世界の人に見えた。

私はただ立ちつくしてその光景を
ただ呆然と眺めていた。

「絢那?どうしたのですか?」

「…!い、いえ…なんでもありません…」

彼の一声で私は我に返り
焦って返事すると彼の元へ駆け寄り
差し伸べられた手をぎゅっと握った。

「綺麗でしょう?
これを貴方に見てほしくて
夜分遅くにお邪魔しました。」

「そうだったんですか…
ありがとうございます。」

彼を見上げお礼を言うと
しばらく二人で月と桜を眺めた。
ふと彼の方を見ると私の視線に
気付き彼は小さく微笑んだ。

今夜はどうにも彼が
いつもより美しくて愛しい。

そして、いつしか私は彼と桜を
重ねてしまっていた。

今を美しく咲く桜は当然すぐに散る。

彼は今を自らの命を犠牲にして
強く美しく生きてる。

そして、命を使い切ったとき
最期は灰となって散る。

普通の人間より明らかに短い命…。


「っ……」

私は涙を流し小さく震えていた。

「絢那?どうしたのですか?」

心配そうに彼は私を見つめ
溢れる涙を拭ってくれる。

私は彼の…山南敬助の存在を
噛み締めるかのようにきつく抱きしめた。

彼は何も言わずに応えるかのように
きつく抱きしめ返してくれた。

「桜が綺麗すぎたようですね」

きっと彼は全てわかっている…。

「私は花が散る時も絢那と一緒に居ましょう」

残された時間はあと少し

「花が散るのを一人で見るのは
あまりにも虚しいですからね」

私は迷わずこの人と共に…

「まぁ…私がなにがあっても
絶対に貴方を放さないので
いつも一緒ですから心配ないですが…。」


……生きて行くよ。



「…私が貴方を放しませんよ。
山南さん。」

end.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -