「寒っ…。」

京の冬はあたりまえだけど寒い。

体が凍ってしまいそう。
仕事で南のほうに居たおかげで
余計に寒さが身にしみる。

冬は仕事の関係やらなんやらで
よく新選組のみんなと過ごす。
そして、寒さで震えているといつも
あの人が私のそばにいてくれる。



「こんにちはー」

屯所に着くといつものように
とりあえず広間へ入った。
しかしそこには誰一人そこには居なくて
広間はただ静まりかえっていた。

「せっかく来たのに誰も迎えて
くれないなんて…寂しいな。」

「あれ?絢那ちゃん、来てたんだ!
久しぶり!」

遠くから声がした。

この声は千鶴ちゃんの声だった。
声のするほうを見ると箒を片手にニコニコと
笑って手を振る彼女がいた。

私は彼女のもとへ駆け寄る。

千鶴ちゃんからだいたいの話を
聞いた私はその場を後にした。

千鶴ちゃんの話だとみんなは
それぞれ自分の部屋にいるらしい。
まぁ、よく考えれば広間に居ないの
だから当たり前のことで。

でも気になることが一つだけ。
彼…山南さんのことを聞いたら
千鶴ちゃんは言葉を濁した。

最後に会ったのは屯所が
この西本願寺に移る前の八木邸で
今年のまだ寒い春。
相当長い間会っていない上に
仕事に関係のない連絡はしないため
この数か月、全く関わりが無かった。

一秒でも早く彼に会いたかった。
だから、土方さんの部屋へ向った。






「失礼します。土方さん、いますか?」

「絢那か?
そうか、帰ってきたのか…入れ。」

襖を開けて中に入ると何かの
書状を書いている土方さんがいた。

「報告は今夜でいいか?」

私に視線を向けず事務的な声で
書状を書きながら土方さんは話す。

「いいですけど…
私がここに来たのは…」

「…山南さんのことだろ?」

筆を置くと一息ついてから
土方さんは私の方を向いて
なにもかもわかっているかのように
彼は話を始めた。

「嘘ですよね…?
本気で言ってるんですか?
生憎ですがそんな戯言を聞いている
余裕なんて持ち合わせてませんよ。」

土方さんの話に耳を疑った。
そんなことあるはずがない・・・絶対。

【山南さんが羅刹になった】

思考回路が上手く働かない。
ボーっとする私に土方さんは
山南さんの居場所を教えてくれた。

おぼつかない足取りでけど
急いで彼の元へと向かった。

廊下はすごく寒かった。






「山南さん…」

そっと襖を開けた。
中には心地よさそうに眠る彼が。

中に入りそばに座ると
私は彼の頬を撫でてみる。

そして撫でてから気付いた。

今、私の手は寒さで冷え切っている。
すぐに手を引いたがすでに遅く
彼は目を覚ましてしまった。

「ん…あなたは…」

「ごめんなさい…
起こしてしまいました」

「いえ、構いませんよ…」

山南さんは体を起こすと眼鏡を
かけて改めて私を見る。

久しぶりに見る彼はいつもと
変わらない優しい表情をしていた。

体を私のほうに向けて視線を
合わせると彼は小さく微笑んだ。

「相変わらず貴方の手は冷たいですね。」

「ごめんなさい…」

羅刹にとって昼間に
起きていることは辛いこと。

私は羅刹である山南さんを
冷たい手で昼間に起こしてしまった。

「別に謝ることじゃないですよ」

彼は優しく微笑むがきっと辛いと思う。

「…昼間起きてるのは辛いんですよね?
私はもう行きますから、寝てください…」

「今は別にそんなに辛くありませんよ。
それに久しぶりに貴方に会えたの
ですから寝ているなんて勿体ない。」

ふと私の手に温かい彼の手が重なった。
両手は彼の大きな手に包まれ
そっと優しく握られた。

「山南さん…?」

「本当に、久しぶりですね…。」

手を握る力が強くなる。
彼の表情は先ほどとは違い
どこか憂いを帯びていて複雑だった。

「もう、二度と会えないと思いました。」

表情と同じく彼の声は複雑で
私は今までどんなに辛かったか
苦しかったか、悲しかったか、
寂しかったかよくわかった。

どうするべきか考えていると
私の体は彼に抱きしめられていた。

「温かいですか?」

「え?あ、はい…。」

突然のことで何がなんだか
わからなかったが私は背中に
腕を回して彼を抱きしめ返した。

すると、去年の記憶が蘇る。

「去年も…
山南さんにこうしてもらいましたね」

「去年も、その前の年もですよ。
絢那は冬になればいつも体が冷たくて
いつか風邪をひいてしまう
のではないかと思ってしまいます。」

思わず私は彼の胸に顔をうずめた。
安心する…彼の匂い。

いつからか私の冷たい体は
暖かくなっていた。

「絢那、愛していますよ」

「私も愛してますよ。」

愛の言葉を囁き合って、
口づけをかわす。


もう何度こんな冬を過ごしたのか
たまに気になるけれど
深くは考えない。

変化し続け
いつ私たちの命が散ってしまうか
わからないこの時代。

昔のことを想うのも良いけれど
これから先どれだけ彼との
時間を過ごすことができるのか
という事のほうが大切に思えた。

でも、本当はあまり考えない。

幸せな時はただその時間だけを
考えていたいから。


先のことを考えるは
死と向き合った時だけ。

矛盾してることなんて百も承知。

でも、生きて幸せになりたいから。



end.
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