ひとひら

「山南さん!!!」

私は急いで彼の部屋へと向かう。

その理由は数刻前に遡る…。



「久し振り!!
今日もいい情報を仕入れてきたよ」

いつものように情報屋の私は彼らに
情報を届けようと屯所に入って
いつものように広間へと向かった。

広間には朝ごはんを食べ終えた
幹部の人たちと千鶴ちゃんがいた。

私はいつも通り明るく声をかけるが
彼らの反応はこれまでにないくらい
暗くて、重くて、違和感かした。

「みんな元気なさすぎ…
具合でも悪いの?」

「あのな、絢那…」

なぜこんなに静まっているのか
わからず首をかしげていると
土方さんが口を開いた。

彼の話した内容はこうだった…

「山南さんが重傷を負いまだ
目を覚ましていない」と…

本当のところ山南さんが重傷を
負ったと聞いたあたりから
ほとんど話を聞いていない。

「嘘…!!」

彼から聞いたことはあまりにも
衝撃的で思わず声を張り上げてしまう。

そして、現在にいたる。
「山南さん…!!!」

目的の部屋に到着すると勢いよく
襖を開き中へと入る。
そこには布団で眠っている
山南さんの姿があった。

彼のそばに駆け寄り声をかける…

すると…

「絢那…?」

彼の声が聞こえた。

「え…?」

思わず動きが止まってしまった。
彼はゆっくりと体を起こして
眼鏡をかけると私に視線を向けた。

「怪我をしてしまってまだ
目を覚ましてないんじゃ…」

もしや、今、目覚めたのかなどと
考えていると彼は見透かしたように

「私はただ眠っていただけですが?」

と言った。

「え…じゃぁ…」

「貴方の早とちりですね」

鋭く彼に指摘されると私は
恥ずかしくてうつむいてしまった。


私はしばらく彼の話を聞き
しっかりと状況を理解した。

「もう刀は握れない…」

彼は左腕が使えなくなってしまった。

「悔しいですが、しかたありません…」

私なんかより彼の方が何倍も
悔しくて悲しいのだろう…

大好きな彼の為に何もできない
自分にすごくいらついた。

そんなことを考えていたら
私はいつの間にか彼の腕の中にいた。

「山南さん…?」

「貴方をこの両腕で抱きしめることが
できなくなってしまった…」

「っ…」

彼の言葉で私の瞳から涙が溢れた。

「すみません…」

謝る彼の姿は本当に切なくて
私は彼の方を向いて力強く
ぎゅうっと抱きしめた。

「大丈夫…今度は私が
貴方を抱きしめる番になる。」

涙がこれ以上溢れないように
今出来る精一杯の笑みでそう言うと
彼は私の名前を呼んだ。

「絢那…」

彼の方を見るといつもの穏やかな
優しい微笑みを浮かべて私を見つめ

「愛していますよ…」

とふわりと囁いた。

そして私と彼は唇を重ねて
互いを確かめ合うるような
深い接吻をする。

それから間もなく彼は羅刹となり
屯所は西本願寺に移された。

***********************

「絢那、どうしたのですか?
先ほどからぼーっとして…」

「うん…ちょっとね…」

小首をかしげ訪ねて来る彼の声で
私は夢から覚めたような気分になった。

春のやわらかい日差しと心地よい風が
私を随想へと誘ったのかもしれない。

「こんなに気持ちの良い日ですから
きっと眠くなってしまったのでしょう」

「…そうかも」

庭の桜が風に吹かれると
ひとひらの花びらが私たちの
もとへと舞い落ちた。

私は今、大好きな彼の腕の中にいる。

しっかりと両腕に抱きしめられて・・・・。


end.


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