思い出の先に



恋人同士だったナルトとシカマルは友達の間では公認のものとされていた
シカマルにべったりとくっ付くナルトは幸せそのもの顔をしていつも笑顔を振りまいて周りを巻き込みナルトの周りには笑顔が溢れていた

だが、その反面…影ではナルトを化け狐と罵しり、暴力を振るう者もいた

ナルトはその人達に何をするでもなくただただ堪えることのみ

苦しみはその時、一時だけ…あとは大好きなシカマルに甘えているだけで傷の痛みも何もかもどうでも良く思えていた


「シカマル…」

「どうしたナルト?」

「んー、何でもないってば」


シカマルが巻物に目を向けているのを邪魔したい訳でもない、でもナルトは猫の様にすり寄りシカマルの膝の上に頭を置くと横になった


「寝るなよ」

「なら相手しろってば」

「あとちょっと待ってくれ」


せっかくの二人の休暇が重なったのに巻物の相手に付きっきりなシカマルに拗ねながら言葉を返せば優しく頭を撫でられ、心地よさに目を細めた


「猫みたいだぞ」

「シカマルの飼い猫なら良いってばよ」

「っ!お前なぁ…」
顔を真っ赤にして頭をガシガシ掻くシカマルにざまぁみろと言うようにペロッと舌を出しクスクスと笑うナルトに対してムキになったシカマルが仕掛けない訳はなく


「あんま煽んなってのっ」

「んっ…ちょ…シカっ!」


唇にキスが落ちてきたと思ったら事を進めようとするシカマルにナルトは昼間っから縁側で何をやらかす気だと赤面しながらも止めようとシカマルの肩を押すがナルトの方が力がなく抵抗しきれなかった

そんな事を繰り返しながら幸せな時を過ごしていた


だが、別れは突然やってきた



「さよならだってば」


そう笑ったナルトの顔は今も思い出せる


シカマルにとっては何が起きたのか、何も分からなかった

ただ、ナルトが目の前からいなくなってしまったと言う事実だけが理解できた

それからシカマルは暗部の総隊長にまで上り詰め、ナルトを探し続けた


手を伸ばしても届かない様にナルトの情報は雲を掴む様な曖昧なものばかりだった


「また隣で笑っててくれ」



そう何度願ったことか分からないまま10年の月日が経った…



「あー、くそっ」


苛立った様に声を上げれば部屋にいた部下がビックリした様にシカマル、黒燈を見ていた


「あの、総隊長?」

「何でもねぇ」


心配そうに声をかけてきた部下を軽くあしらい自分がうたた寝をしていた事にため息を吐いた


ナルトの新情報を知ってからと言うもの夢見が良いようで悪い

終わりがあの悲しげなナルトの笑顔ってだけで楽しかった思い出が一気に辛いものに変わる


「あー、集中できねぇ」

「えっ?総隊長!?」


残りの書類を部下に押し付け席から立ち上がったシカマルはドアへと足を向けていた


「10年か…」


もうそんなになるのかと空を仰ぎ見ながらシカマルが足を向けた場所は奈良家の領土でもある森の中だった


「よう」


わらわらと集まって来る鹿に軽く挨拶をすると鹿達はシカマルに挨拶を返すようにお辞儀をした
それをいつも通りに見たシカマルは変化を解きある場所に向かおうとしたが一匹の鹿に服を引かれ首を傾げることとなった


「どうした?」


行き先を妨害をされるのは初めてで驚きながらどこかに案内しようとしているのが分かり仕方なく後をついて行くことになった


「蒼火?」


案内先には予想していなかった人物が池の前の木にもたれ掛かり寝ているのを目撃することとなった


「何でこんな場所に」疑問には思ったもののぐっすりと眠りについている蒼火は少しの事では起きそうになく蒼火の隣に腰を下ろしたシカマルは鹿達に大丈夫だと言うように頭を撫でてやれば集まっていた鹿は散り森の奥へと帰って行った


「巻物か…これは!」


蒼火が開いたままの巻物が視界に入ったシカマルは驚きの声を上げた

そこには世界に一つしか無いだろうシカマルも見たことがない禁術が乗った巻物


「んっ…」

「やべっ」


流石の大声に目を開けた蒼火に慌てて口を塞ぐも後の祭り
とりあえず昼寝の邪魔を謝るべきか?それとも何で奈良家の敷地にいるのか聞くべきなのか?聞きたいことがありすぎて言葉に詰まっていれば蒼火はぼんやりとまだ寝ぼけた様な顔をしてふわりと自然の笑顔を向けてきた


「………」

「っ!」


何かを呟いた蒼火はそのまま眠りに落ちようとしていたが、シカマルは何も声をかけることが出来なくなったまま固り、蒼火が眠りにつくのを見守ることになった

さっき呟かれた言葉は固まったままだったシカマルには聞こえる事なくすーすーと規則正しい寝息が聞こえる様になりシカマルははっと流石に我に返った


「今のは反則だろっ」

今まで人を小馬鹿にする様な笑顔しか見せなかった蒼火が無防備なあんな笑顔を見せるなんて誰が想像できただろう


「クェー!」

「!夜霧かビックリさせんなよ」


いきなり現れた夜霧に驚きながら頭を撫でようとすれば容赦なくその手に夜霧はくちばしを振り下ろす


「おまっ、あぶねぇだろ!!」


ギリギリで避けたシカマルは夜霧に文句を言うが取り合ってくれる筈なく


「お前相変わらず可愛げがないぞ」


無くて結構と言うようにそっぽを向く夜霧に翻弄されている間に蒼火の目がゆっくりと開かれた


「夜霧…任務?」


首を横に振る夜霧に蒼火はそうと言葉を紡ぐとシカマルへと顔を向けた


「黒燈…いえ、今は奈良シカマルでしたね。」

「っ!」


正体がバレているのに驚き目を見開いたシカマルに対しこれといって何も反応を見せない蒼火はそのまま話を進める


「貴方の家の敷地内に勝手に入り込んですいません」

「いや、それより鹿達によく攻撃されなかったな」

「…慣れじゃないですか」


奈良家の鹿は土地を守る様に部外者を排除しようと攻撃を仕掛けるため、奈良家の者が招き入れるかしないとならないのだが


「それか懐かしんでるのかもしれませんね」


悲しげに微笑んだ蒼火は今にも消えてしまいそうに儚く映り、反射的にシカマルは蒼火の手を取った


「シカマル?」

「お前はすぐ消えそうだな」


ナルトとの別れに似た感覚に胸が締め付けられる様に痛み、不思議そうにこちらを向く蒼火はクスッと笑顔を見せた


「まだいなくなりませんよ」

「いつかいなくなるだろ?」

「そうですね。サスケが動く前には」


悲しげに揺れる瞳はナルトとの別れの時に似ていてこの手を放したくないと握る手に力を込めた




2014.1.4 完成



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