私と仕事どっちが大事なのとかいう女にはジャーマンスープレックス
それからファミレスを出て、銀髪さんと四人で色んなところに連れてってもらった。
総悟もミツバ姉も楽しそうで、江戸に来れて良かったと心から思った。
その仲むつまじい姉弟の姿の端で一人、
ブツブツ文句を垂れてる人もいるが。
「─たくっ、人の休日を邪魔しやがって」
『あら?いちばん楽しんでる人が何を文句言ってるのかしら』
「……」
銀髪さんの頭にはチョッパーの帽子、両手にはジャンプショップで買い込んだグッズがたくさんだった。
「ま、まあ?仕事がない日くらい満喫してみようかなっと。大人はメリハリが大事だからね、うん。」
『銀髪さんはお仕事なにをしてるんですか?』
「あ?あぁ、万事屋ってゆう…言わば何でも屋だな。あと何?銀髪さんて。…銀さんで良いぜ、つかお前名前は?」
『ゆずぽんです、土方ゆずぽん』
苗字を口にした途端、目を丸くさせて驚いてる様子を見せてその後バツが悪そうに目を背ける様子からすると感づいたかなっと思った。
「も、もしかしてー、鬼の副長さんの?」
『妹です。お知り合いですか?』
「ま、腐れ縁みてェなもんだな。にしても本当に妹?遺伝子どう組み替えたらそんなニコニコした子が生まれたの?」
普段無愛想で笑わないトシを思い浮かべて笑いが出た。
『反面教師的なね、トシの分までヘラヘラ笑ってあげないと。』
そういえば、昔からトシは仏彫面でいつも怒ってたな。(特に総悟に)
あの頃は、毎日が幸せでいつも周りに皆がいて、…。
『銀さん、何でも屋さんに依頼してもいい?』
「あ?お、うん、なんだ?」
口に先ほど買ったアイスを詰め込みながら、覚束ない感じで返事をする銀さん。
『ミツバ姉の傍にいてあげてほしいんです。』
「あぁ、沖田くんの姉ちゃんか。」
結婚の話が出た時から、少しだけ嫌な予感がしていた。なぜ、江戸で商人をしている人が武州の田舎の女を嫁に…と選んだのか。
確かにミツバ姉は美人で器量もいい。
そんな人に見初められるのは分かるが、出会うキッカケ、結婚に至までの早さにも少し合点がいかなかった。
「…なんか、気になることでもあんのか?」
銀さんにそう聞かれ、難しい顔をしていたのをスッと直す。
そして先程までのヘラッとした顔に戻し顔を向けた。
『ううん、ただミツバ姉には幸せになってほしいの。江戸に少しでも友達を作って楽しく暮らしてもらいたい。』
「……そっか。任しとけ。」
それから日が暮れ、ミツバ姉の嫁ぎ先でもある大きなお屋敷に着いた。
「今日は楽しかったわ。ありがとう、銀さん」
「あぁ、これくらいどってことねーよ」
ミツバ姉の嫁ぎ先のお屋敷はとても大きくて、いかにも”稼いでます!”な感じがした。
その屋敷の様子を見ながらまた不安が過ぎっていると暗かった路地にライトが光った。何事かと思い振り返るとパトカーが近付いてきていた。
そこから出てきたのは真選組副長、土方十四郎。
「おい、お前らそこで何やってんだ。ここは転海屋の屋敷…、っ」
「、十四郎さん…っゴホゴホッケホッっ」
『っ、ミツバ姉っ!』
急に激しく咳き込んだミツバ姉はその場に倒れてしまった。
そして総悟が屋敷の中まで運んでくれ、屋敷の主である旦那があたし達も中まで入れてくれた。
少し大きめの空き部屋にミツバ姉を寝かし、少し看病した後は総悟に任せ客間へ足を運んだ。
「顔見ただけで倒れちゃうなんて、何したんでしょうねー」
「旦那ァ、そりゃ野暮ってもんですよ」
そこの部屋にはトシの周りで銀さんと山崎さんがぷぷっと笑いながら茶化している。
それに対し、トシもイラついたのか大声をあげる。
「うっせーな!何でお前がここに居んだよ!てか山崎なんでアフロ?!」
余程、トシと銀さんは仲が悪いのか言い争いが始まりため息をついて二人の間に割って入った。
『はいはい、煩い。傍でミツバ姉寝てるんだから静かにして。』
「「…はい。」」
トシをチラッと伺うと少し難しい顔をして煙草に火をつけていた。
この表情はミツバ姉を心配しているものか、それとも仕事のことなのか、
否、両方…?
『ま、よくある発作だから安静にしてたら良くなるよ。だから今日は総悟に任せて帰ろうか。』
そう言って三人を立ち上がらせて部屋を出た。
渋々言いながらも着いてくる男達を玄関の方へ先に行かせ、あたしはミツバ姉の寝てる部屋へお邪魔して声をかけた。
『じゃあミツバ姉、無理しないでね。』
「ありがとね、ゆずぽんちゃん。あたしは大丈夫なんだけどあの人ったら心配して明日から病院なの。暇してると思うから遊びにきてね。」
『もちろん、じゃあ総悟はもう少し着いててあげてね』
「分かってまさァ、少ししたら帰る。」
そう言う総悟に頷いて部屋を出る。
待たしているから少し急ぎ足で玄関先へ向かっていると、顔の濃い男が立っていた。
「おや、あなたはミツバ殿のご友人の、」
『…こんばんは、土方ゆずぽんと申します』
直感だが、この人がミツバ姉の婚約者だと思った。一般人とは違う、少しお高いオーラを出している。
「土方…、では真選組副長様のご兄妹で?」
『ええ、妹です。』
それを聞いた主人の口元が少し動くのを見た。まるで何か獲物を見つけたようなそんな顔。
「そうですか、ミツバ殿も立派な弟さんやかわいい妹分を持てて幸せでしょう。局長様もお優しそうですし、副長様も…」
『ずいぶん、真選組にお詳しいんですね。』
ペラペラと喋っていた口を閉じた。やっぱりこの商人は怪しい。裏があると思っていたのは間違いでは無さそうだ。
『失礼します』
それだけ言って頭をさげると、目的地へ足を進めた。
後ろで黒い笑みを浮かべているのも知らずに。
これから起きる悲しい結末も知らずに。