私と仕事どっちが大事なのとかいう女にはジャーマンスープレックス



それから数日後、
あたしたちは江戸へ向かった。



町に入ると、武州とは違い賑わっている人にきらびやかなお店がたくさんあった。




『近藤さんはキャバクラに夢中になってるらしいよ』と話をしながら、少しずつ近付く目的地にドキドキする。









「えっと…、ここでいいのよね」

ミツバ姉が持っていたメモと目の前の建物を見比べて確かめていた。



─真選組屯所─


汚いながらもハッキリと書かれている看板を見ると間違いないらしい。


『お、…おっきい…』


その屋敷の大きさに驚愕。

武州では絶対見かけないであろうくらいの敷地の広さに口があんぐりと開いたままになる。




目をパチクリさせていると中から一人の隊士が顔を出してきた。

黒髪で片手にバドミントンのラケットを持った男の人。きっと隊服を着ているし真選組の人だと思い、ミツバ姉とふたり頭を下げた。



(『…てか、剣はどうした、剣は。』)

「あれ?お客さんですか?」



「ええ、沖田ミツバ、と申します」

「沖田…さん、」


その隊士さんは苗字に軽く反応した。

確かに顔も似ているし性格は違えど、二人を知る人なら身内ということは分かってしまうだろう。


「あ、とりあえず中どうぞ。こちらへ。」

そう言って中に連れてってくれ、ひとつの部屋へ案内された。


そこはやっぱり、といったような
とても高級そうな広い部屋できっと客間なんだろうと思った。



『中まで広いんだねぇ。』

「ほんと、立派なところで住んでるのね」



通された部屋で出されたお茶を飲みながら部屋を見渡す。


二人でそんな話をしていると、外でドタドタと駆けてくる音が聞こえた。

何となくこれだけ騒がしい人は察しがついてしまった。




─ガラッと襖が開き、見えた顔は懐かしい人。



「ミツバ殿!ゆずぽんちゃん!」


相変わらずのゴリ…いやいやいや、端正な顔立ち。(棒読み)


「お久しぶりです、近藤さん」

『近藤さんもなんか相変わらずだな、安心かも』

ふたりでクスクス笑って出迎えた。

武州でいた頃と何ら変わりのない人の良さが染み出てる人物。


近藤勲。この真選組のリーダーだ。


それでも久しく会ってなかったので、髪型や髭を生やしていることに新鮮みを感じながら懐かしんだ。

それから三人で思い出話や、その後の話に花を咲かせた。



「ミツバ殿もゆずぽんちゃんも綺麗になった!」

「あら、近藤さん。そんなこと言っても何も出ませんよ」


ふたりが話をしながら笑っているのを見て改めてこの場所は好きだ、と実感した。

昔に戻ったようで何だか自然と笑みがこぼれる。







まあ、そう和んでいたのも束の間、




ズドォォォォオォォオン



音のした方へ目をやると、襖に倒れ込む焦げた隊士たち数名。、とその後ろにバズーカを抱えて腹黒い顔を浮かべる男。



「おぉ!総悟やっと来たか!」

「すいやせん、コイツしとめたら行きやすんで」


相変わらずの性格に苦笑いしか出ません。

ま、これはこれで変わってないから良い……のか?



「総ちゃん、お友達いじめちゃダメよ。めっ。」


あ。





「すいません!お姉ちゃん!」

「「「「えぇえぇええぇぇぇぇ?!」」」」


ミツバ姉に「めっ」されたこの男は、
誰もが引くほどのドS王子、沖田総悟。

素直に人のゆうことを聞く姿なんて
江戸へ来てから初めてなんじゃないかな、と


他の隊士さんたちのポカン顔で察しました。





『そうですよ、総ちゃん、めっ!』

「なんでィ、ゆずぽんも。懐かしいなァ。こんな芋顔な女、江戸には居ねぇから。」

『めっ!!!!』


さっきより三割増しの大きな声で言っても総悟は知らん顔してミツバ姉に頭を撫でてもらっている。



なんだよなんだよ、あたしの「めっ」じゃ不満か。





「そうだ、総悟。今日は非番をやるからミツバ殿とゆずぽんちゃんに江戸を案内してやってくれ。」

そういさ兄が言うと、総悟はパアッと顔を明るくさせミツバ姉の手を取って立ち上がる。


そうするとミツバ姉はあたしに気付いたのか、また優しく声をかけてくれる。


「ほら、ゆずぽんちゃんも行きましょう」


昔から何度こんなことがあっただろう。

小さい頃から決まって総悟とあたしは、
ミツバ姉の奪い合いをしてきた。


優しいミツバ姉は左手に総悟、右手にあたし、

そうやって手を繋いでよく三人で歩いていた。



そんな姿を思い出しながら、少し笑って首を横に振った。


『あたしは少し用事があるから、終わったら合流していい?』

「そう?初めての町なんだから迷子になっちゃ駄目よ?」


あたしの頭にふわっと手をおいて撫でてくれる。


いつまでたっても子供扱いなんだから、と
口を尖らせるとミツバ姉はクスクスとまた笑った。



「コイツなら大丈夫です、姉上。そこらの犬より鼻が効きやす。美味しいもんでも食べてたらすぐ尻尾振ってきやすよ。」


『嗅覚で探せってか。ならそれなりの飯食ってろよ、コノヤロー』


そんな会話をしてから、総悟とミツバ姉は屯所を出て行った。


それを見送って部屋をもう一度見渡すと、
まだ隊士さんたちの唖然とした表情が消えてなかった。




「き…局長っっ!なんですか、あの沖田隊長は!別人じゃないですか!」


あ、さっき部屋まで案内してくれた山崎さん。

よっぽど驚いていたみたいで近藤さんに詰め寄って説明をしてほしそうに訴えていた。




『奴は重度のシスコンですよ、ぷぷっ。小さい頃からデレデレデレデレ。』

出されたせんべいを食べながら、バカにしていると近藤さんがまた大きく笑った。


「全くだ!ま、シスコンなのは総悟ひとりじゃないけどな」


『はは、確かに。』

「え?それって…」


山崎さんや他の隊士たちがまたキョトンとした顔で近藤さんとあたしを見やる。



さっきまで崩していた足を綺麗に正座に代え、
両手をついて軽く一礼をする。



顔をあげて周りを見てもまだ、何がなんだか、と
言った表情を浮かべているので

クスッと笑いながら遅れながらの自己紹介。




『お初にお目にかかります、土方十四郎の妹、土方ゆずぽんと申します』

「「「「え」」」」



『以後、お見知りおきを。』






しばらく部屋に沈黙が流れたかと思うとまた大きな声が屯所中に響いた。


「「「「えぇえぇええぇぇぇぇ?!」」」」









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