私と仕事どっちが大事なのとかいう女にはジャーマンスープレックス



次の日、転海屋が一斉検挙という見出しが一面の新聞が賑わった。

真選組はお手柄…、と喜びたいところだが悲しい現実がそこにはある。今日はミツバ姉のお通夜だ。




真選組屯所内で、通夜が行われる。
あたしも急遽用意した黒い着物に腕を通し、トシの横で真っ直ぐ前を見つめる。

総悟はミツバ姉の遺影写真をジッと見つめて涙は流していなかった。


周りを見ると涙を流す隊士もたくさん、もちろん武州の頃から一緒だった隊士さん原田さんや藤堂さんに至っては泣きじゃくって顔が潰れていた。

そしてすぐ隣に座る、真選組局長近藤さんもさきほどから涙と鼻水が止まらず嗚咽まで聞こえてくる。






もう一度総悟に目をやり、あたしは最後に交わしたミツバ姉との約束を思い返す。



彼女の声や笑顔を思い出していると、
まだすぐ傍にいそうな気がしてならない。

けどきっとそれはただの弱さで、
そんな自分を情けなくも思った。




式の最中、総悟は急に立ち上がり部屋を後にした。

周りの隊士たちはもちろん、あたしやトシ、近藤さんは驚きを隠せずその背中を見つめた。

「…総悟っ、」

近藤さんが立ち上がろうとするより早く、あたしが腰をあげて総悟のあとを追った。


「え、ちょ、ゆずぽんちゃ…っ」

「あいつに任せときゃ大丈夫だ、ジッとしとけ」


トシが近藤さんを静めその場に座らせた。



あたしは急ぎ足で屯所のあちこちを探した。

庭を見渡すと桜がきれいに咲いていた。

それを見て、毎年みんなでお花見をしたことを思い出す。

確か総悟と二人で桜の花びら集めてミツバ姉にあげたっけな、トシや近藤さんは酔っぱらってて、そして─


ミツバ姉にくっつく総悟の笑顔がとても幸せそうだったな。




『…そりゃ、辛いよね。』


ふたりの姿を思いだし、あたしも幼い頃のトシと自分を重ねていた。気付けば傍にいてくれ、自分を護ってくれていた兄。


『そういえば……』




思い当たるところがひとつだけ思い浮かんだ。




縁側から空を見上げた。

気持ちとは裏腹に良好な天気。風がちょうどよく吹いていて気持ちが良い。




『─総悟、みーつけた』

「なんでィ、隠れんぼなんてしてやしたか?」


思った通り、総悟は屋根の上に寝転がっていた。



そういえばお花見をした日もトシと大喧嘩した総悟はどこかへ走って行ってしまってた。

皆で探して、結局総悟がいたのは自分の屋敷の屋根。



チビだったくせにどうやってのぼったのか不思議に思う。



『…空でも見てたの?』

「そんなロマンチックな男じゃねぇやィ。ちょっと考え事してただけでさァ。」



そう吐き捨てる総悟の横へ座り込み、ゆっくりと手を握った。

『あたしはね、…やっぱり辛い。』


そう言うと総悟はこっちに顔を向けてあたしを見てきた。



『今まで傍にいてくれた人がいない生活なんて初めてだから、どうしていいか分からない。まだ武州の総悟の家に行ったらいつもの笑顔で迎えてくれそうな気がして』


「俺もでさァ」

総悟はあたしの目を見たまま話を続ける。


「これから武州で俺を待ってくれている人がいない、あそこに帰る意味はねェって思っちまう。じゃあ、あそこはなんなんだろうねィ。姉上がいなくなった今、なんの価値もねェ。」

『─あたしが、待っててあげる。総悟が帰ってくるの待っててあげるから。』


そんな寂しいこと言わないで。



そう言ったあたしの目からは涙があふれた。


「なに言ってんでィ。お前ェを武州に帰らせて待たせようなんて思っちゃいやせん。」

『…え?』


キョトンとした顔で総悟はあたしに近付いて頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。


「お前ェはここに居なせェ。ずっと、ずっと毎日俺の帰りを待ってりゃいいんでさァ。」

『え、ちょ、どーゆう…』


いい加減髪がぐしゃぐしゃになるのでその手を止めようと腕を掴んだ瞬間、総悟の顔が目の前に近付いてきた。



「お前ェだけはどこにも行くな。ずっと俺の隣で居りゃいい。俺はもう強い、強くなった、お前を護ってやる。」


それだけ言うと唇に暖かいモノが触れた。

口へのキスは初めてだった、今まで子供がするようなおでこやほっぺは何度かされたが、

これが本当のキスなんだ、と思うと恥ずかしくも少し幸せな気持ちがあった。


『─総悟、』

「あ?」

離れた総悟の顔にもう一度顔を近づけて、『もう一回、』と頼むとニヤリと笑って次は長いキスをしてくれた。



『─、ずっと傍にいてあげる』

「チッ、俺に上から物言うなんざ百年はえーでさァ」










─ミツバ姉、

あなたが居なくなって、
たくさんの人が泣きました。

あたしは勿論、総悟や近藤さん、トシ、
それに山崎さんや銀さん。

知り合って間もない江戸の人たちも
あなたを想い泣いてくれました。

あたしはその姿をみて、
不謹慎ながらも幸せな気持ちになったんです。

あなたが愛されていることを
改めて実感できたことに。


総悟はやっぱりあなたがいなくなった途端に良い子ぶるのを止めました。

もうあのシスコンを見ることもないと思うと残念です。


正直あたしはずっとあなたに憧れていました。いつでも皆から愛されているあなたが。

あたしじゃ、あなたの代わりはやっぱり役不足だと思います。皆に愛されるなんて難しいことだと思うもの。


だから、あなたが愛してた人を
あたしも愛していこうと決めました。



いつでも空から見守っていてください。

あたしも毎日、空を見上げます。
あなたの幸せを願って。











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