お姉ちゃんは、わたしと居て幸せだったのかな…
お姉ちゃん、わたしに声を聞かせて。会いたいよ…

わたしはお姉ちゃんが望むモノ、欲しいモノを全部を奪ってしまった
家族の愛情、健康な体…それに、椎也くんだって…

お姉ちゃんが亡くなる前、わたしに言ったの。


「れい…大好きよ、幸せになってね」

いつものお見舞い中、お姉ちゃんが突然言った。
わたしは嫌な予感がして、とてもとても辛くなって、びくりと体を振るわせたけど
明るく装って、何にもわからない振りをして、お姉ちゃんを安心させようと思って、いつも通りの声で

「どうしたのお姉ちゃん?いきなり。」

「…それから、椎也くんを愛してあげて。椎也くんを幸せにしてあげて」

椎也くんっていうのは、お姉ちゃんと同じ色違いの、男の子。
2人はとても仲が良くて、わたしも妬いちゃうほど仲が良かったけど、
でも、2人が一緒に笑ってるところを見るのが、わたしは凄く好きだった。
お姉ちゃんは、椎也くんの事が。椎也くんは、お姉ちゃんの事が好きなんだってわたしは知ってた。
だからわたしは、そんな2人に幸せになってもらいたかったし、その場にわたしも居られればいいなあって思ってた。

「…わかった。でも、お姉ちゃんも一緒だよ…?」

「わたし…わたしは、お空から2人を見てるわ いつでも笑っていてね
大好きよ、有難う 迷惑ばかりかけてごめんね」

「…っ お姉ちゃ…」

「あ、そうだ!
今日ね、看護婦さんにお願いしてマカロンを作ったの!
椎也くんと2人で食べて?お姉ちゃんの愛が沢山入ってるわよー」

ぽん、と手を叩いて嬉しそうに、楽しそうにお姉ちゃんが言う。
わたしは困惑して。

「う、うん。有難う…」

「じゃあ…今日も有難う おやすみなさい、れい。」

いつもの別れの言葉。
でも、今日は別れたくなかった。
嫌な予感がずっと離れなくて、もやもやして

「うん…」

「会えなくても…ずっと傍に居るわ。
もう今日は遅いから帰りなさい。気をつけるのよ?」

「でも…」

「大丈夫よ、お姉ちゃんまだ死なないから」

えへへと笑うお姉ちゃんを見て、お姉ちゃんのその言葉を聞いて、安心してしまった私は幼かったんだろう。
それは、その場に居たわたしを悲しませない為のお姉ちゃんの吐いた優しい嘘だった。

「ほんと…?」

「ええ。…れい、大好きよ おやすみなさい」

「おやすみなさい…」

そう言ってわたしは、お姉ちゃんが作った最後のマカロンを持って病院を出た。


その数時間後、わたしはお姉ちゃんが死んだと病院からかかってきた電話で知らされた。
わたしは結局、お姉ちゃんが何を思っていたのかわからないまま、お姉ちゃんはいなくなってしまった。

お姉ちゃんは本当にわたしのことが好きだったの?
恨んでいなかったの?嫌いになったり、しなかったの?
わたしと変わってしまえばいいって思わなかったの?
…お姉ちゃんは何で、自分が1番大変なのに、いつもわたしの事ばかりだったの?
お姉ちゃんは何で、あんなに優しかったの…?

もう一度会いたい
お姉ちゃん、会いたいよ
もう一度だけ、一瞬だけでいいから、また3人で一緒に過ごしたいよ

どうして、お姉ちゃんが死ななくちゃいけなかったの
会いたいよ…声を聞かせてよ…
もう、忘れそうなの、声を匂いを、温もりを優しさを
忘れたくない、忘れたくないのに、記憶がどんどん曖昧になっていく
写真だって、もっと撮れば良かったのに
お姉ちゃんいつも有難うってもっと言えば良かったのに
お姉ちゃん大好きってもっと伝えれば良かったのに

…こんな風に辛くなった時、悲しくなった時、椎也がわたしを慰めてくれる。
わたしは、ずるい。
お姉ちゃんが大好きだった人を奪って、慰めてもらってる。
わたしは、ずるい。
いつかこんなわたしに罰があたるんじゃないかと思って、
また、お姉ちゃんみたいに椎也が死んでしまうんじゃないかって凄く怖いの


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