短編 | ナノ


「なあなあなあなあ」
「はいはいはいはい」
「名前ちゃん何で3-Bじゃないんかの?」
「それは先生に聞いてほしいなあ」
「じゃあ俺のクラスに来る?」
「行かないよ」
「嫌じゃ一緒に授業受けたいナリ」
「私が怒られるわ〜」
「大丈夫、俺の膝の上に乗ってたらバレん」
「いやバレるだろ〜どう頑張ってもバレるだろ〜〜〜」

ココ最近、やたら絡んでくるようになったこの男。やたらじゃすまないくらい絡んでくるようになったこの男。名前は仁王雅治。
トレードマークの銀髪に襟足の尻尾。加えて口元に色気ボクロがある。『今立海で一番孕ませてほしい男No.1』らしい。知るかクソ!

「朝から大変だね」
「ゆーきーむーらー!見てるなら助けてよー!あんたの所の部員でしょ!?」
「え?やだよ、面白そうだし」
「ひ、人でなし…!」
「ん?何かいった?」
「いーえ!なにも!」

斜め前に座る幸村がフフフと取ってつけたような笑みを零しながらこちらを傍観している。そう、ここは3-C組。仁王のクラスは隣のクラスの3-Bだ。従って一緒に授業を受けることはない。なのに彼は先程からあの手この手で私を自分の教室に連れていきたいと駄々をこねている。
おたくのテニス部がこんなに迷惑かけてるのに止めないんですか!と言いたいのだが、部長である幸村が傍観に徹している。真田くんを引っ張ってこようかなと思ったけど、幸村がいる手前彼は使い物にならないだろう。
本当なら仁王のファンクラブから袋叩きになってもおかしくないのだが、何故かほぼストーカーのように私に付き纏う仁王を見て「これは…これでいい…」と謎の母性本能を発揮し出した女子が続出し『仁王を見守る会』が新たに発足される次第となったときいた。いや、ファンクラブもっと活動しましょうよ。放課後呼び出ししてリンチしてくださいよ!と言いたいところだが私もチキンなんで頼み込んでまでいじめられたくはない。

一方、渦中の仁王は冒頭からわたしの机の前にしゃがみ込んでいた。ふわふわな銀髪に蜂蜜色の双眸がこちらをじっと見つめている。心なしか口元はへの字になっており、ムスッとしているような気がする。

「ずるい」
「はい?」
「幸村ばっかりずるいナリ。俺も名前ちゃんと一緒に授業受けたいぜよ」
「それ幸村に言ってよ」
「だめじゃ俺が殺される」
「ふふふ、そうだね。そこで這いつくばって悔しがってればいいよ」
「プ、プリイィ!」
「負けるな仁王!魔王を倒せ!」
「苗字?」
「ハイスミマセンデシタ」

文庫本を読んでいたはずの幸村がもはやこちらを見向きもせずに言い切って、私と仁王は震え上がった。
やはり魔王には勝てないか…と項垂れていると、急に目の前が真っ暗になった。な、なしたこれは。動揺を隠せずにいたが事態はすぐに収束する。どうやらムギュっと仁王に抱きしめられているようだ。しかし今度は何故こうなっているのかという疑問符で頭がいっぱいになる。慌てて目の前の仁王をどかそうとするが、意外と分厚い胸板にドキリとした。
そんな自分にもドギマギしてしまって、誤魔化すように声を荒らげる。

「ちょ、ちょ、前が見えない!」
「もう戻らんといけんー嫌じゃー」
「おう!戻れ戻れ!」
「名前ちゃん連れて行きたいナリ…」
「それは勘弁してくださいな」
「い゙や゙じゃあ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
「うるさッ!耳元でうるさッ!」

前見えないし今の仁王の雄叫びで頭ギチギチされて骨が軋んだ。やめろ。私の脳細胞がやられる。何だこの駄々こねる子供は…!いや、私もまだまだ子供だけどね…!

「わかった!わかったから一旦離して!」
「一緒に教室来てくれるんかの…?」
「そんなウキウキさせた後にごめんけど、一緒に行けない代わりにはいコレ」
「……これって」
「わたしのLIMEのIDだよ。暇な時送っておいで」
「わ、わー!わー!!」
「だからとりあえず教室戻りなよ。先生が困るし」
「わ、分かったナリ!名前ちゃんにいっぱいLIMEする……!」
「う、うん」

満面の笑みで去っていった仁王。致し方ない。このままでは確実に私が担任に怒られていた。ちょっとやそっとじゃ動かなさそうだったしこれなら…と思っての最終手段だ。ふう、と汗を拭うフリをして一息つくと幸村が再び振り向いた。

「あーあ、仁王にLIME教えちゃったんだ」
「え?ダメだったかな?」
「ま、俺は面白いからいいけどね」

またもニコニコと取ってつけたかのような笑みを浮かべる幸村の発言の後、わたしの携帯が震動しはじめた。ん?と思って画面を見やると、物凄い勢いでポップアップが表示されていく。

「う、うわぁ…」
「あの勢いじゃこうなる事くらい分かりそうだけど」
「いや、まったく…帰らせるのに必死で…」
「はは、だよねぇ苗字だもん」
「カチーン」
「それに柳じゃないけど授業合間にはまた仁王が押しかけてくる確率92%、だよ」
「え、なんで」
「答えを言ったら面白くないだろ?」

そして幸村の予言は奇しくも当たることになる。

(名前ちゃんーLIME既読にならんのなんでじゃー)
(既読つけないと休憩の度に顔を出すようになった辛い)
20170223(ストーカー気質な仁王)