短編 | ナノ
※悲恋




「山本がやったの?」

名前の声は予想に反したものだった。驚愕と怒気、そして悲壮感が漂っていたのだ。てっきり褒められると思っていた俺は拍子抜けしてしまった。


イタリアでツナの為にボンゴレとして働くようになった俺は大抵のことをこなせるようになった。ほら、今だって目の前に転がる斬殺死体達を踏みつぶしながら名前に近付いてる。
名前はヴァリアーの幹部だ。今回の任務は本部との合同で、選ばれたのが俺と名前。久しぶりの再会を喜ぶ間もなく訪れた場所で俺たちは任務を開始した。


なのに、だ。別口から侵入した名前が俺の所に合流した途端、あの台詞。
何がいけなかったのだろう。スクアーロみたく爪が甘いと言いたいのだろうか、それとも殺し方が下手だとか?それちょっと思ったんだよな自分でも。
なんつーか俺の悪い癖なんだけどさ、楽に死んでほしいけど痛くない方がいいんじゃないかって悩んでたら致命傷なんだけど暫くは生きてられる殺しかたっつーか、あぁ、それが気に食わないんだな名前は。

「やっぱまだ爪が甘い?自分でも気付いてんだけど中々直せないんだよな。次はちゃんとやるからさ、機嫌直せって」

な?って手を伸ばしたら、名前はその手を跳ね飛ばした。

「いつからこんな、!」
「ど、どうしたんだよ名前、急に怒鳴りだして…」
「ねえ山本、野球はどうしたの?何で笑ってられるの?」
「落ち着けって、どうしたんだよ」

名前は俺の腕を掴んで揺さぶった。ヒステリックに叫ぶ彼女を見るのは初めてで、そんな一面もあるのだと喜ぶ自分が居ることに俺はひっそりと気付いていた。

「山本の手は人を斬るためにある訳じゃない」
「何いって、」
「私は、こんな山本知らないよ…」

悲痛そうに顔を歪める名前はずるずると俺の腕を掴んで崩れていく。
あれ、何で名前泣いてんだ?だって俺を強くしてくれたのは小僧だし、親父だし、スクアーロだし、強くなっていく俺を見て褒めてくれたのも一番喜んでくれたのも名前だったのに。






リング戦の前に偶々河川敷で会って「野球って楽しいの?」と声を掛けてきた名前と草野球をしたのがきっかけだった。
段々仲良くなって、「明日から来れないの」と言って姿を消した名前と再会したのは並中グラウンド。馬鹿みたいに跳ねた俺の心臓はまだその頃知らなかったんだ。この症状が一体、どんなもんなのかって。


自覚したのは雨の守護者戦。スクアーロが鮫に食われた後。ステージから帰還した俺が見たモニターに映った名前は絶望一色だった。
知らないふりをするのは得意じゃない。気付いてしまったそれを、俺は長年秘めていた。10年後でスクアーロに修行をつけてもらったときだって名前はその隣にいた。10年経ったって二人の関係は変わってなくて、俺は小さく歯を噛みしめてたんだ。
もっと強くなれ、強くなるしかない。彼女が俺を見つめるようになるには、きっと。



「ははっ、」
「何がおかしいの」
「だってさ、狡いよなスクアーロは」


名前は次に発した俺の言葉に酷く顔を歪ませる。

「俺と同じ事してんのに、名前に愛されてるんだからな」


きっと俺も、同じように顔を歪めているんだろう。




スクアーロの恋人を愛してしまった山本
20110628 前サイトより