気づいてお願い気づかないで


ずっと好きだった人。
ずっと思い続けてた人。
言葉で言い表せないくらい愛してた人。

思っている時間も思いも、私の方が長いのに……。


あの人は、あの子の方ばかり見ている。




夜中に巡察に行っていた沖田さんたちが帰ってきたかと思うと、一人の女の子を連れて帰ってきた。
羅刹に襲われていたところを、沖田さんたちが助けたらしい。




その夜から数ヶ月後。
あの人があの子と話しているところをたくさん見るようになった。
今も、二人は一緒にいる。

「もう、沖田さんたらっ!」
少女が怒りながら言うと、沖田さんはあはは、と笑った。
私には見せたことのない笑みだった。

「沖田くん、みょうじくん、ちょっといいかい?」

突然源さんに声をかけられ、二人揃って返事をする。

「ちょっと、おつかいに行ってくれないかね?」
「はい」
「わかりました」

そうして二人で、おつかいに行くことになった。




「もう全部買いましたね……」
「そう、じゃあ帰ろうか」
沖田さんはそう言って、歩き出そうとする。

「あ、あの……」
「なに?」
私が声をかけると、くるりと首を回してこちらを見た。

「あの、荷物持っていただいたままじゃその、申し訳……」
「ああ、そのこと? 別に大丈夫だよ、気にしないで」
そう言ってすたすたと歩いていったと思ったら、とあるお店の前で立ち止まった。
なんだろう、とそちらを見てみる。
そのお店には、きれいなかんざしが並べられていた。
いろんな色のかんざしが、きらきら輝いていて、その中でも、淡い桜色のかんざしが一番きれいで可愛らしい。まるで……。

「千鶴ちゃんみたいだね、このかんざし」

隣でぽつりと沖田さんが呟く。
嫌な予感。
それでも私はそれに頷いた。
「すみませーん」
沖田さんは、出てきたお店の人からそのかんざしを買う。


「千鶴ちゃん、喜ぶかな」
帰り道、お菓子をもらった子供みたいに沖田さんが言った。
「……きっと、喜んでくれますよ」
あの子も沖田さんが好きだから。
そう、心のなかで付け足した。




夜。
屯所の中をぶらぶら歩いていると、中庭に二人の男女の影を見つけた。
さっと物影に隠れたのは、その二人が沖田さんとあの子だから。
沖田さんが何か言い、あの子が怒る。
それを何回か繰り返し、沖田さんが何か言うとあの子は下を向いた。
沖田さんが懐から何かを出し、あの子の頭にさす。
今日買ったかんざしだ。
あの子が顔を上げると、沖田さんがからかうように言う。するとあの子が照れてそして……。

「――っ!!」

二人の影が、唇が、重なった。
私はそれを見ていられなくて、その場から音をたてずに離れた。




自室の障子を閉め、着替えて布団に潜り込んだ。
枕に顔を押し付けると、枕が徐々に濡れていく。

ああ、なんて寒いんだろう、独りで泣くと言うのは。
あの子はきっと、泣いたとしても沖田さんがいるから寒くないんだろうな。

そんな風に考えながら、いつしか私は眠りの世界へと、引きずり込まれていった。




(気づいて、私の貴方への想いに)
(気づかないで、私の醜い心に)


▼逢緋さまよりコメント
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。
切なくなくてすみません。千鶴ちゃんが嫌いなわけではないのですが……。
とにかく、ありがとうございました!

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -