鎮まってお願いだから



 新選組。そう聞くとまず思い浮かぶのは人斬り集団という言葉。新選組は京の町で悪い意味で目立っていた。巡察に回る浅黄色の姿を見ると悪いことをした訳でもないのに避けたくなる。

 「なまえちゃん、おまけしとくね」

 「いつもありがとうございます」

 「いいのよ。この前のお礼だと思って。これからもよろしく頼むね」

 「はい」

 笑顔で頷き返す。そう、私の家は診療所。町の人達から頼られているお父さんに憧れて小さい頃から進んで手伝いをしてきた。お父さんみたいに難しい医学書は読めないけど、普通の病気くらいは診れるつもりだ。

 「えっと、次は・・・あっ」

 浅黄色が少し離れた所に見えた。・・別の道から行こう。そう思って踵を返そうとした時、先頭を歩く人と目が合った。翡翠色の綺麗な瞳だった。職業柄、そういう人達を好きにはなれない。というか、嫌いだ。あんなに綺麗な瞳なのにもったいない。止まっていた足を再び動かす。しばらく緑色を見ると思い出してしまいそうだ。少し憂鬱な気持ちになった。

 「なまえ姉ちゃん、遊ぼうぜ!」

 家に帰ると三、四人の子供達に取り囲まれる。以前、怪我の手当てをしてあげてから懐かれてしまったのだ。

 「今日はダメ。夕方の診察があるから」

 「診察はいいよ。行って来なさい」

 「えっ、お父さん!?」

 「ほら、先生もいいって言ってんじゃん。行こ!」

 子供達に手を引っ張られ連れて行かれる。

 「ねえ、どこに行くの?神社はそっちじゃ・・」

 「今日は総司も来るんだ。なまえ姉ちゃんはまだ会ったことないだろ」

 総司・・この辺にそんな名前の子いたかな?そして、着いたのはとある建物の前。そこには一人の男の人が立っていた。

 「総司っ!」

 そう呼ばれるとその人は片手を軽く振って答える。瞳は、翡翠色だった。腰に刀を差していて、間違いないあの人だ。

 「その子は?」

 「なまえ姉ちゃん。怪我した時に手当てしてもらったんだ」

 「ふーん。初めまして、僕は沖田総司。よろしくね、なまえちゃん」

 笑顔で話しかけてくる。だけど、私の口から出たのは

 「・・新選組」

 彼の瞳が少し曇ったような気がした。

 「どうしたんだよ。なまえ姉ちゃん」

 黙り込んだ私を不審に思った子供達が袖を引っ張る。

 「・・・・・」

 「それよりさ。早く遊ぼうよ。今日は何する?」

 「そうだな、うーん。鬼ごっこがいいなあ」

 「いいよ。じゃあ・・」

 「沖田さん!あの、こちらこそ、よろしくお願いします」

 彼は驚いて、その後に笑って「総司でいいよ」と言った。

 「鬼決めよっか」

 「えー、ここでやるのか?」

 「嫌なの?」

 「あの恐い人が来そうじゃん」

 「ははっ、そうだね。神社でする?」





 それから私達は時々、遊ぶようになった。

 「今日はおままごとにしよ?いっつも鬼ごっこなんだからいいでしょ」

 一人の女の子の意見でその日はおままごとをすることになった。

 「総司がお父さんで、なまえお姉ちゃんがお母さん。それから・・」

 どんどん役が決められていく。

 「はい、じゃあ。お母さん、お父さんにご飯渡して」

 木の葉の上に花がのせてあった。可愛いなあ。

 「えっと、お父さんどうぞ」

 「ありがとう」

 ちょっと恥ずかしい。

 「お母さん、ここ焦げてるよ」

 えっ!?そ、そんなこと言われても・・

 「ふふっ、冗談だよ冗談」

 私がキッと睨むと、総司さんは花を手に取り私の髪にさした。

 「似合ってる」

 ドキッとした。急に笑いかけないで。少しだけ触れられたところが熱い。

 その後のことはほとんど覚えてない。ただ総司さんの方をあんまり見れなかった。





 次に遊ぶのが楽しみだった。いつも頭に過ぎるのはそのことばかり、新選組だってことは全く気にならなくなっていた。けれども、楽しい時間には限りがあった。

 「もう来れないってどういうことだよ!?」

 子供達はポコポコと総司さんを叩きながら責める。総司さんはただ「ごめんね」と繰り返すだけ。どうして?もっと会いたかったのに。もっともっと一緒にいたかったのに。言いたいことはたくさんあるのに言葉が出てこない。私は結局、何も言えなかった。





 それからも私は何度も神社へ行った。もしかしたら、会えるかもしれない。そんな儚い望みをかけて。

 「今日も、か・・」

 私は階段に座り込む。総司さんが来たことはない。もう来れないと言っていたんだから当たり前だけど。待っているうちに雨がぽつりぽつりと降り出してきた。

 「冷たい・・・」

 もう諦めた方がいい。そうわかっているのに諦めきれない。苦しいよ。

 「はあ。雨が降ってるのに傘をささないなんて風邪引いちゃうよ」

 背後から聞こえた呆れたような・・でも、私を心配してるとわかる声。なぜ?ここにいるはずがないのに。そう思いつつも嬉しかった。もう一度会いたいと何度も願った。諦めることを諦めた。

 「総司さんっ・・・・」

 振り返った先には誰もいなかった。雨足が強くなり、私をさらに冷たくしていく。

 私は何時まで貴方を待ち続けるのでしょうか?この思いは何時になったら・・・


 鎮まってお願いだから

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