今から君に告白します


この気持ちの行く着く先は一体どこにあるのかと、時々考えることがある。恋なんてものは私には無縁だとばかり思っていたのに、私の心はふわりと優しい笑みを浮かべるあの人にいとも簡単に奪われてしまった。





「全くあなたという人は。こんな時間まで何をやっていたのですか」




図書館で調べ物をしていると、いつの間にかすっかり日が暮れているのは日常茶飯事で。そろそろ帰らなくてはと急いで玄関へと向かうと、見慣れた後ろ姿が視界に飛び込んできた。トクンと高鳴る胸の鼓動に導かれるまま颯斗くん、と彼の名前を唇が紡ぎだす。振り返った彼は秀麗な顔を歪ませてそう呟いた。




『ちょっと調べ物してたら遅くなっちゃって……。颯斗くんは生徒会??』

「えぇ。会長と翼くんが残していった仕事を片付けていたんです」




そしてどちからともなく寮までの道のりを歩き出した私たちを、街灯の仄かな明かりが照らす。少し前を歩く颯斗くんが何を考えているのかは解らないけど、時折空を見上げるその表情はとても穏やかで、確実に私の心拍数を上げていく。それから何かを思い出したかのように「あなたは」と切り出した颯斗くんは緩慢な動作でこちらを振り返った。




「いつもこんなに遅くまで残っているのですか」

『え…??あ、うん。割と遅くまで残ってるかも』




毎日出される大量の課題を片付けるのに、図書館はうってつけだ。部屋に戻るよりも集中できるし、何よりすぐに読みたい資料を手に取ることが出来る。そうこうしているうちにあっという間に時間が経ってしまい、今日みたいに遅くなることも少なくはなかった。
 正直にそう告げれば、颯斗くんの顔は瞬時に険しいものへと変わる。何か怒らせることを言っただろうか。あれこれ考えを巡らせているとそれを断ち切るかのように、颯斗くんは小さなため息をこぼした。




「勉強熱心なのは名前さんの良いところでもありますが、こんな時間まで一人で残るのは感心しませんね」

『う…ごめんなさい』




ご立腹な颯斗くんに敵うはずもない私は素直に謝罪の言葉を口にする。心配してくれたことは嬉しい。だけどやっぱり少し落ち込む。私の軽率な行動が原因だと解っているから尚更だ。呆れられてしまっただろうか。




「そんな顔をしないで下さい」




優しい声色に誘われるように、いつの間にか下を向いていた顔をゆるゆると上げる。困ったように小さく笑う颯斗くんと視線が絡めば、いつものように心臓が小さな悲鳴を上げた。




「甘やかしてしまいたくなります」

『……え??』




いまいち颯斗くんの言葉が理解できなくて、一字一句違わずにゆっくりと頭の中で反復してみる。困惑する私を見て颯斗くんはくすりと笑った。その顔はとても綺麗で、瞬く間に私の思考を鈍らせてしまう。




「次から遅くなりそうな時は僕に連絡して下さい」

『えっ…??颯斗くんに??』

「そうです。何か問題でもありますか??」




満面の笑みでそう問われれば、黙って首を左右に振るしかなかった。それでも颯斗くんに迷惑はかけたくなくて、どうしてなのかと恐る恐る理由を尋ねてみる。




「そうですね……」




考えるような仕草を見せた後、颯斗くんはいつものように柔和な笑みを浮かべた。一歩こちらに踏み出した颯斗くんとの距離はぐっと縮まって、心臓が忙しなく脈を打つ。




「あなたを守る役目を他の誰かに渡したくないからでしょうか」




そして颯斗くんは何事もなかったのように、さぁ帰りますよと再び寮までの道を歩き始めた。その背中を引き止めるように、彼のブレザーを掴んだのはほとんど無意識に近い。瞬きをする間のほんの一瞬、自分でも驚くほど自然に指先は彼を捕らえていた。




『っ…颯斗くん!!』




言わなくちゃいけないと思った。今言わなければたぶん一生口にできないような気がして。震える指先にぎゅっと力をこめる。




『あのね、私……私ね』




今この人に伝えたい言葉がある。ずっと言いたくて言えなくて、大切に温め続けてきた。ちゃんと伝わるように、颯斗くんに届くように願いを込めて。大きく息を吸い込んだその先で、薄紅色がふわりと優しく揺れた。
















今から君に告白します
(あなたの手の平が)
(私を包むまであと――)


▽みぃさまよりコメント
素敵な企画に参加できたことを大変嬉しく思います。拙い文ではございますが颯斗くんのダークな色っぽさが少しでも伝われば…と思います(笑)





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