朝、といってももうほとんど昼に近いが 太陽の光に照らされて目が覚めた俺は ゆっくりと起き上がった。




笑って言ってあげる




隣でまだスヤスヤと眠る名無しの顔を覗き込めば、俺もこのままずっと一緒に眠っていたいなんて思ってしまう。

実際問題そんな訳にはいかず、俺は名無しを起こさないようにゆっくりと寝台から降りる。
重い瞼を擦りながら、冷たい水で顔を洗えば少しは眠気が取れた気がした。


多少眠気も取れた事だし さて、鍛練にでも行くか…なんて思いながら まだ重い身体を引きずるように獲物を手に取る。

手に馴染むその獲物は、ズッシリと重量感があり 持った瞬間に先程までの眠気なんてものは直ぐにぶっ飛んだ。


顔を洗うのなんかより獲物を握った方が目が覚めるなんて皮肉なもんだが、実感こいつを見れば身体の奥から沸き上がる“闘志”とも“戦意”とも言い難い荒々しい感情…。
直ぐ様暴れてやりてぇ、何て気持ちを押さえる事もせずに俺は鍛練場に向かう為に部屋を出ようとした。


扉に手を掛けた瞬間、ふと獲物を見れば そいつの刃はガタガタで こりゃ使い物にならねぇ。

「手入れすんの忘れてたな…。」

戦が終われば 必ず手入れをする獲物だが、先日の戦の時は 戦終りの宴会で飲み過ぎて手入れをする暇も無く寝ちまった。


仕方ねぇ、今手入れすっか…なんて小さく呟き、身体の底から沸沸と沸き上がる“暴れてやりてぇ”なんて感情を必死に押さえ込んだ。



仕方なく部屋でチマチマと獲物の手入れを始めた俺は、寝台で眠る名無しの寝息を聞いている。
しばらくそうして獲物の手入れをしていた俺の耳には、先程までは何の音もたてていなかった寝台が 微かに軋む音が聞こえた。



寝台へ目をやれば 上半身を起こし、眠そうに目を擦る名無しが居た。
コイツの顔を見ただけで無償に嬉しくなる俺は、自然に溢れる笑顔で名無しに声をかけた。


「よぉ、起きたか。」

「…甘寧。おはよう…」
まだ眠そうにしている名無しに向かって、“なんだ、だらしねぇ。さっさと起きやがれ”何て言えば “甘寧が寝かせてくれなかったんでしょ!”なんて可愛い台詞が返ってきた。

無論、台詞とは裏腹に名無しは随分とキツい物言いで可愛げなんて有りゃしねぇが…。


「まったく!」
そう怒りながら名無しは寝台から降りると ガツガツと床に座る俺の方へと歩いてくる。

こりゃ頭でも叩かれるかな、なんて思いながら獲物を床に置いて名無しの顔を見上げる。
不機嫌そうな名無しの顔は、それはそれで可愛いもんだ。


近付いて来た名無しに頭を一発叩かれるのを覚悟して、ただただコイツの顔を見ていた。
だが名無しは俺の目の前に座ったと思えば、そっと俺の身体に自らの身体を預け ただ小さく呼吸していた。


「おい、」

いきなりの事に一瞬驚いた俺だが、とりあえず名無しの腰に手を回した。
その反射的とも言える行動に、名無しは満足そうに微笑んでいる。


この女独特の柔らかさがたまらなく心地良く、今の俺の顔もきっとニヤニヤしちまってるんだろう。
それは きっとコイツだからであって、女なら誰でも良い訳じゃねぇ。


ふと頭を撫でてやれば髪からは甘い香りがする。
あぁ、たまんねぇな…なんて思いながら 首筋辺りの髪に顔を埋めてやれば 香しいその甘い匂いが俺を包むように香った。


その柔らかく甘い名無しの香りに、一瞬だけ跳ね上がった俺の心臓は 今じゃ情けない位に鼓動が早い。

名無しの仕草や行動一つ一つに心臓が反応する。
柄にも無く、たまらなくドキドキする。
コイツの全てに。



あー、獲物の手入れも進まねぇ。
コイツを俺から引き離して さっさと獲物の手入れして、鍛練場に行くのなんて容易い事だ。
やろうと思えば直ぐに出来る。

だが今の俺は 思いっきり獲物振り回して暴れてぇ、なんて事より この細やかな幸せを噛み締めていたかった。


俺らしくないのも、周りからみたら馬鹿馬鹿しいのも よく分かってる。
ただ、どうしようもなくコイツが好きなんだ。
どうしようもなく。

「なぁ、名無し」


「なに?」




今俺が お前に好きだなんて言ったら笑うか?
(私も好きだ、と言ってくれるか?)



.






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -