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『───俺の名前は松風天馬!天馬でいいから!よろしくね!!』


そう、これが天馬君との出会い。そしてその後、私はそこへ住むことになった。雷門中に通うことにもなった。
そう言えば、初めて雷門中へ行くとき、天馬君と一緒に行く約束してたのにすっぽかされちゃったんだっけ。たしか、天馬君は朝練習の前の朝練習しに行ってたんだよね。それで1人で行くことになって…あの時は結構早い時間に出たはずなのに迷いに迷って結局遅刻寸前に着いた。その時に出会ったのが霧野君だった。あの時、霧野君が遅刻しそうじゃなきゃ、私は遅刻どころかその日中に雷門にたどり着けなかったかも知れない。
私の教室はA組。そこで隣の席になった神童君とも出会った。一緒にお弁当も食べたんだっけ。
学校の初体育ではサッカーをした。あの時は私、初めからとばしすぎてしまったんだ。そうそう、子供たちがしてたサッカーを邪魔してボールで遊んでいた不良を追い払ったりもした。
その後、神童君の家にもお邪魔して…サッカー部に入ることになって。そこで色んな人と出会えて…マサキとも再会できた。…そう言えば昔はマサ君って言ってたんだっけ。凄く、凄く懐かしい。
鬼道監督の練習メニューはキツかったけど楽しかった。有り得ない、あるはずのない“0”の背番号に身を包んでグランドを走り回った。
振り返ってみると、すごく充実した楽しい毎日で。今となっては、辛い思い出になのだけれど。でも、そんなわずかな時間でも、雷門にいられたことは後悔してない。


「……凄く、楽しかったよ」

「戻る気はないんですか?」


私が、雷門中に?


「…戻りたくないって言ったら嘘になるけど…戻る気はない。私はフィフスセクターだから。フィフスを裏切るどころか、離れようとすることさえ向こうはきっと絶対に許してはくれない。…私は剣城君みたいにはなれない。」


剣城君はフィフスから抜けることが出来た。だけどそれはもう一つ剣城君の居場所があったから。
私にはそれがない。裏切れば私の居場所は確実になくなる。だから無理なんだ。私には絶対に出来ない。


「…私は雷門の敵。この関係は絶対になくならない。……剣城君ともね?」


私は隣で静かにそう言うと、剣城君は黙ってしまった。そう…もう敵なんだよ。
私は雷門を潰すってみんなの前で言ってしまった。その言葉はみんなをさらに怒らせてしまっただろう。


『───……もう、顔も見たくない…』


キミの言葉が…あの言葉が胸につっかえて、忘れられないんだ。
だからもう───戻ることは出来ない。

あの時…私が雷門を裏切った日。神童君は怒ってて、でもどこか悲しそうな表情だった。あれは私のせいなんだって思うと、とても辛くて、涙が出そうになる。やっぱり好きだった人に言われるのは辛かった。1番傷ついた。
でもその分、私も彼のことを傷つけた。みんなに嘘ついて、突き放しすような言葉を吐いて。
私がずっと黙ってきたからこんなことが起こってしまい、そのせいで私は雷門から追い出された。まぁ、あの時はマサキと剣城君まで巻き込んでしまうかもしれないと思ったから言ったわけで、決して本音ではない。…だからと言って、こちらとて今更戻ろうなんてバカな考えも私の中にあるはずがないのだが。
あんな発言をしておいて、許してもらおうなんて、誤解だなんて、今更言ったってもう遅いんだから。
後戻りなんて出来ない。敵は敵らしく、悪役で終わらなければ。まぁ、フィフスに協力する気もサラサラないけれど。

私は裏で豪炎寺さんの手伝いをする。革命の手伝いを。雷門中のみんなには内緒で。
だから私は、みんながその革命を起こしてくれるように、どんな壁が立ちふさがっても乗り越えられるようなチームを作るために、悪を演じるんだ。
どんなに酷く言われても、どんなに貶されても。どんなに…嫌われても。


「…ねぇ、今度は私から質問していい?」


黙っていた剣城君にそう聞くと、どうぞと一言だけ返ってきた。


「…マサキは元気?」

「……狩屋ですか?」

「…うん。マサキは、多分あの件があって…きっと落ち込んでるだろうなーと思って。私がフィフスだったこととか色々、隠してたから。……ゴッドエデンで1番最初に私だと気付いてくれたときも無視しちゃったし…」


一応、血は繋がってなくても弟みたいな存在だ。


「まぁ、元気ですよ。先輩を絶対取り返す的なことを言って燃えてましたし」


……どうやら心配は無用だったようだ。私はそんな台詞を言ってるマサキが想像できてしまってつい笑ってしまった。


「…やっぱり昔からマサキは変わらないなぁ」

「でも、先輩が連れ去られた後は特に凄かったですけどね。」

「…え?凄かったとは…?」

「先輩たちにも怒鳴り散らしてましたよ。…あ、霧野先輩を集中攻撃してました。」

「…マサキらしいなぁ……そっか…。」


私、頑張らなきゃな……。て言うか、霧野君だけ集中攻撃は可哀想でしょ。確かに酷いこと言われたけど、その前に私だってみんなに真実を黙ってたわけだし。
それに霧野君の言うとおり、部活中に使ったことはなかったけど、みんなの技見てしまったし……多分、出来ちゃうんだろうな…みんなの色々な技が。
私は小さく溜め息を付くと同時に、ポケットにつっこんでいたケータイが着信音とともに震えた。


「…ちょっとごめんね、剣城君」

「いえ。」


私は昔とは違うケータイを取り出して、画面に表示されている名前を確認しながら通話ボタンを押した。
スマートフォン。千宮路に無理矢理換えさせられた。ていうか、既に新しいものを用意されていた。何がしたかったのか意図は分からない。どうせGPS機能がついてるだけなんだろうけど。
でも私からしても、昔のケータイ持ってるままだと、アドレス交換した人達(サッカー部員)から罵倒メールが罵声電話、マサキのみ心配メールや電話が来そうで怖かったから好都合だ。実際に(内容は見てないが)着信が鳴りまくってたし。このケータイを使わせてもらうことにした。
昔の方は自分の部屋の机の引き出しの中に入ってる。一応、通信は止めてもらっているから大丈夫だ。


「…もしもし。何ですか、イシドさん?」

『いや、太陽との話は終わったのかと思ってな』

「…あぁ、終わってますよ」

『なら、もう日が暮れる。そろそろ帰ってこい』

「…何かお父さんみたいなセリフですね。…すぐ戻ります。……あ、それから…帰ったら少しお話があるのでお時間いただけますか?」

『あぁ、分かった。じゃあ気を付けて帰って来いよ』


そう言ってイシドさんは通話ボタンを切った。ツーツーという音がケータイから聞こえる。
私は通話を切って画面を落とすと、再びポケットの中に収めた。


「聖帝からですか…?」

「…うん、そう」


剣城君の質問に私は素っ気なく返す。
私はベンチに座ったまま、オレンジから青に変わってきている空を見上げて溜息をついた。


「…今突きつけられている現実と戦わないと」


そう呟いて私はベンチから立ち上がった。そして、振り返って座っている剣城君を見る。
私はもう1つだけ、剣城君に聞きたいことがある。それは私が雷門から消えて、1番に思っていたこと。


「…剣城君、最後の質問。みんなはもうどこまで知ってるの?…私のこと」

「…四天王メンバーのトップってことだけです。異名はまだ教えてません。」

「…あぁ、言ったら多分、フィフスの切り札が私だって分かっちゃうもんね……別に伝えてもいいけど。その辺は剣城君に任せる。…それと1つだけみんなに伝えておいてくれるかな?」

「何をですか…?」

「…黙っておいてごめんね、それからホーリーロード優勝頑張って、ってよろしく。……私とは次会うときは敵同士かもね。」


私は剣城君に向かって笑って言った。今、私はきちんと笑えてただろうか。
そんなことを思いながらくるっと体の向きを変え、剣城君に背を向けた。


「…話長くなってごめん。お兄さん、手術受けられるといいね」


私は横目で剣城君を見ながらそう言うと、小さく笑って「じゃあまたね」とだけ言い残し、病院を後にした。





「…で、話とは何だ?」


フィフスセクターのアジト、と言えばいいのだろうか。そんな広い場所へ病院から帰ってきた頃には、既に空は薄暗くなっていた。
私はそこにある、イシドさんがいる部屋に入ると、早速電話で話していたことを聞かれた。


「…その、」


…頼む人が本当にイシドさんでいいのかと、躊躇してしまう。でも私には、頼れる人がイシドさんしかいない。
悩んでいると、ふと優一さんの楽しそうにサッカーのことを話していた表情が脳裏に蘇った。
まだ何も言ってない。ダメなんて言われてない。ここで悩んでも仕方ないじゃないか。言ってみなければ分からない。


「…どうした?」

「…単刀直入に言います。剣城君の…お兄さんの足を治してあげて下さい!」

「…足を?」

「…はい。イシドさんには全然関係ないかも知れないですけど…剣城君がお兄さんの手術費を稼ぐためにフィフスセクターに入ってたこと知ってますよね?優一さんにはまたみんなとサッカーをするっていう夢があるんです…。私に出来ることと言えば、こういうことしかないから…だから…」

「…分かった。そのことは私も少し前から気になっていてな」

「!…ありがとうございます!」


イシドさん曰く、この前太陽に会いに行っときに見かけてずっと考えていたらしい。
良かった。これで優一さんは夢に1歩近付ける。手術を受けられる。もう、サッカーする事を諦めなくてすむ。一緒に剣城君とサッカー出来るんだ。
私は今日1日中、そのことで頭がいっぱいだった。




〜狩屋視点〜


土曜日。いつも通り練習があった。
今日は信助君のキーパーの練習をしていた。昨日まで悩んでいた信助君は放課後、誰かと一緒にキーパーの練習をしたらしい。今日は昨日と打って変わり、とても元気だったから明日の試合はなんとかなるんじゃないかなと思う。あ、別に天馬君みたいな軽いノリで言ったんじゃないからね。
フィフスセクターは焦っているのか何だか知らないけど、実力行使に出た。革命をしようとした他の学校をいくつか廃校にしたと聞いた。そのことについて天馬君が悩んでいる。彼曰く、聖帝とも会ったらしい。
それにしても、天馬君と言い信助君と言い、新雲戦の前に悩み過ぎなんだっての。…まぁ、俺も人のこと言えないんだけど。
藍花…明日の試合、見に来るのかなー…なんて思ってしまう。でも最後に会ったのはゴッドエデン。だから藍花は今、ゴッドエデンにいるのかな…。
明日は新雲学園との試合だから、みんな気合いが入っている。でも剣城君はほんの少しだけ様子が違ったような気がした。


「剣城君、どうかしたの?昨日何かあった?」


俺がそう声をかけると剣城君は驚いて、こちら見た。


「…いや、何でもない」


明らかに昨日なんかあったんだな、と感付く。昨日、剣城君は入院しているお兄さんのお見舞いに行くと言って、部活を休んだ。だとすると、昨日の間に何かあったという推測が1番妥当だろう。
でも、本人が何でもないと言ったってことは、触れてほしくない内容かもしれない。なら、詮索はやめだ。ここは相手の気持ちを尊重。あまり深入りはしないようにしておこう。
俺はそう思いながら体の向きをくるっと変えると、グラウンドの側の木のあたりに人影が見えた気がした。でもそれは一瞬で、何もない木を俺はじっと見つめる。


「…狩屋、どうかしたか?」

「え?いや、別に…さっきその木のあたりに誰かいたような気がしたんですけど…?」

「木に?…誰もいないじゃないか。まさか幽霊とか!?」

「…は?え?」

「冗談。気のせいだろ。…俺達は暇だろうけどな、西園の頑張りをきちんと見守ってやれよ」

「分かってますって。」


…俺の気のせい、だったのか?
霧野先輩に適当に返事を返し、俺は目線を木から外した。部活終了まで、あともう少しだ。


 * * *


部活が終わるとみんなはぞろぞろと、部室に戻っていく。
信助君は剣城君の化身シュートのお蔭で、見事に化身を出して止めることが出来た。その後はキーパーが増えたと言うことで、練習試合。
俺はタオルを首にかけて汗を拭きながら戻ろうとすると。


「ねぇねぇ狩屋!」

「狩屋!」


異常な笑みを浮かべてこちらに向かってくる天馬君と信助君。
2人とも少し前までは悩みまくってたのに…すごーく元気になったねー。これで一安心だねー。良かった良かったー……うん。逃げよう。
取り敢えず俺は逃げるべく、部室に向かって全力疾走した。「あ、待ってよー!」と言いながら笑顔で追いかけてくる2人に恐怖を感じ、更にスピードを上げる。
誰よりも部室に速く着き呼吸を整えると、近くのテーブルの上に茶色い紙袋が寝かされて置いてあるのに気が付いた。寝かされて置いてある紙袋の中から黄色いものが見える。俺は誰かの置き忘れかなと思いながらその紙袋を手に取って中を覗いて見た。


「……は…」

「もう!狩屋待ってよ〜って何それ?」


追いかけてきた天馬君と信助君の後からぞろぞろと部員たちが部室に戻ってきた。天馬君は隣で紙袋の中を覗く。


「ユニフォーム…?何で?」

「どうかしたか…?」


後ろから剣城君がやってきて、横から覗く。天馬君の言う通り、紙袋の中にはユニフォームが入っていた。
そうだ。さっきまで部活があったのに、誰かがユニフォームなんか置き忘れるわけなんてない。そう素早く判断した俺は中からユニフォームを取り出して背番号を確認した。
俺は背番号を見て目を見開く。見間違いかと思った。


「…!!」

「これって…!」


だけどそこには紛れもなく、


「………藍花…」


───“0”と書かれていた。



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