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「はぁー!! 良いお湯だったなー!!」
「結構、喉乾きますよね…!」
「ジュースおいしい…」
「…そうだね」
私たち4人は、ロビーにおいてある自動販売機まで行って飲み物を買った。水鳥はカル●ス、葵ちゃんはオレンジジュース、茜ちゃんはアップルジュースで、私がパックのカフェオレ。ロビーでのほほんとした話をしながらくつろいでいた。
「あ、二年の男子も上がったみたいだぜ」
「…ホントだ」
水鳥が廊下の方を見ると、二年の男子が話しながらこっちの方へ向かってくるのが見えた。
「お、藍花の好きな奴発見」
「…なぁっ!!?」
いきなりの水鳥の言葉に驚いて、顔が熱くなる。つい、変な声を出してしまった。
「おーおー赤くなって…可愛い奴だな」
「…水鳥!」
「わりぃわりぃ」
茜ちゃんと葵ちゃんも側でくすくす笑って見てた。もう、笑ってる場合じゃないよ。聞かれてたらどうするの!
「賑やかだな…」
ふいに後ろで声がして、振り向くと神童君と目があってしまう。さっきの話で意識してた所為か、バッと目をあからさまに逸らしてしまった。 もー!水鳥のせいで余計に意識しちゃうじゃんか。感じ悪かったかな…ごめん神童君。
「みんな遅かったね…?」
「…え?あ、あぁ…」
「(鼻血が止まらなかったなんて言えねぇ…)」
「……?」
…どうしたんだろう。みんながみんな一斉に目を逸らした。
「あれ…?」
今度は浜野君の声がしてそっちの方を見てみると「なんだよ浜野。人の顔をじろじろ見て」と言う水鳥の方をじろじろと見ていた。
「え。…瀬戸?」
「は?何言ってんだ浜野。」
水鳥って分かってなかったのか。 …そう言えば言うの忘れてた。今の水鳥はいつもと違って、高い位置でポニーテールしている。でも分かるよね。髪の色からして。
「みんな、いつもと髪型違うな」
「藍花以外はな。」
「…どうせいつも通りです」
実は茜ちゃんと葵ちゃんも。茜ちゃんはお団子ヘアで、葵ちゃんはおでこをだして結んでいる。 …あ、そうだ。水鳥にさっきの仕返ししてやろう。
「…水鳥はそっちの方が似合って可愛いよね」
「「うんうん」」
そう言うと、男子みんながうんと強く頷いて水鳥を見ていた。水鳥の顔が赤くなる。
「…ぷっ、」
「な、藍花!」
「…何ですか〜?」
「〜〜〜〜っ!!」
「ふっ…」
…勝った。完全勝利。 心の中で小さくガッツポーズをしていると、茜ちゃんが「…でも、そう言った霧野君も髪結んでない」と霧野君に声をかけていた。確かにそうだ、霧野君も2つに結んでない。
「あ、俺?俺はまだ乾いてないから結んでないだけ」
そう言ってにっと笑う霧野君。私はじーっと霧野君の髪を見つめていた。
「ん?どうした鈴野?」
「…あ、いや…別に…」
「えー何だよー」
「……髪質良さそうだな…って」
「ぶっ」
…髪の毛サラサラそうだなぁ…髪質分けて欲しい。
「(浜野と倉間、笑いやがって…) ま、まぁ、俺手入れとかしないからよく分かんないけど…。でも鈴野も髪綺麗じゃん」
「…ありがと、」
「でも、結んでなかったら更に女っぽくなるよなー」
「ちゅーか、色っぽさが出てエロい?」
「あ?何だって…?」
笑いながら話していた倉間君と浜野君は、霧野君の一言により土下座しそうな勢いで謝る。みんなは苦笑いをして2人を見ていた。 まぁ…楽しそうだから、い、いいんじゃないかな?
〜神童視点〜
温泉から上がると、マネージャーと鈴野がもう既に上がっていて、ロビーの自動販売機の近くで飲み物を飲みながら何かを話していた。声をかけると、鈴野とバッチリ目が合う。だけどすぐに逸らされ、俯いてしまった。何か悪い事したか? 俺の好きな綺麗な藍色の髪はまだ濡れていて、髪から水滴が滴り落ちている。そんな姿にも見取れてしまう俺はやっぱり重症なんだろうか。
「そう言えば、他のみんなは…?」
「あぁ…3年と錦はもう少し温泉を楽しむって」
「オヤジか。」
山菜に聞かれたことに答えると瀬戸が即答する。 歳は1つしか違わないんだけどな。それに、錦は同じ学年じゃないか。
「…1年は…。…あれ、天馬たちは?」
「あー何か毎回恒例の枕投げ大会するって言ってた」
「ガキか。」
1年どこ行ったんだ?と呟く倉間に今度は一乃が答えると、再び瀬戸が同じツッコミをいれた。年齢的にガキと親父の差が、そんなに変わらないような気がする…けど、敢えて突っ込むのは止めておく。 瀬戸の横にいた空野は「毎回恒例って…」と苦笑する。1年生は1年生で枕投げと忙しいらしい。枕投げするから忙しいなんて聞いたことないけどな。
「…それじゃあ、俺はそろそろ部屋に戻るよ」
「あ、俺も」
そう思っていると青山と一乃は自動販売機で飲み物を買って、部屋に戻ろうとしていた。
「俺らも部屋戻ろうぜ!」
「…浜野。お前どんだけ怪談話やりたいんだよ。」
どうやら浜野、霧野、倉間、速見は怪談話をするらしい。風呂入ってるとき聞こえてたけど、まさか本気だったとは思わなかった。
「いーじゃんいーじゃん!あ、そう言えば神童はどうする?一緒に怪談話やる?」
「いや、俺はいい。今から円堂監督に用があるから…」
…まぁ、嘘なんだけど。それよりも今は、何か少し鈴野が元気ないような気がするからそっちの方が凄く心配だ。
「そう?りょーかーい。んーじゃあ、鈴野は?」
鈴野は自分に振られると思っていなかったのか「…え、私…?」と一瞬驚いた顔をした。鈴野は少し考えた後しどろもどろになりながらも、怪談話苦手だからいいやと断っていた。
「んー。分かった。じゃーな、またな〜!」
そう言って倉間の背中を押しながら、霧野と速水の4人で部屋に戻っていった。残っているのは女子4人と、俺。
「…神童は?円堂監督の所行かなくていいのか?」
瀬戸はみんないなくなった途端、俺の方を向いて聞いてくる。
「あ、あれ嘘。明日のメニューはもう聞いてる」
「は?神童が嘘付くなんて珍しいな。何でそんな嘘ついたんだ?」
「浜野君の性格からしたらね…」
「あぁ…強制されるからな…」
そう言えば、瀬戸は深く頷いて難しい顔をしながら腕を組んだ。
「あーそっか…。…にしても、サッカー大変だな」
「…そうだな。でも勝つために強くならないと」
「フィフスセクターのしてることは間違ってますよね!」
「本気で試合をするからこそ、楽しいサッカーが出来るのに…」
フィフスセクターは、間違ってる。 サッカーは平等なものなんかじゃない。
「あいつら…サイテーだよな。」
「あぁ…フィフスセクターは絶対に、許せない…」
「…っ、」
「頑張りましょうね、フィフスセクターに勝つために!」
「あたしらもしっかりサポートするな!」
「任せて♪」
そう言ってる中、俺は鈴野が辛そうな顔をしているのに気付かなかった。
「あれ、藍花先輩まだ髪濡れてますね」
鈴野は少し、俯いた状態でぼーっとしている。横から見えた表情はどこか寂しそうだった。
「…藍花先輩?」
そして不思議に思った空野がもう一度呼ぶと、鈴野はハッとしたようにこっちを向いた。…さっきから、少し様子が変なような気がする。どうかしたんだろうか…
「…あ、うん……髪、濡れてるね…」
そう言って苦笑いしながら、髪を触っていた。
「藍花ちゃんも髪結べば?」
「……結びたいけど…下手になるから…」
「そうなんだ…」
「…うん。結ぶときは誰かにやってもらってるから…あ、私そろそろ部屋戻る…」
鈴野は薄く笑ってそう言うと、俺たちに背を向けて部屋へと戻っていった。元気がないような気がしたけど…いや、誰がどう見ても元気がないように見えた。何か心配だ。
「…んでぇ〜?神童、お前は藍花の事どー思ってんの?」
「……は?」
瀬戸にいきなり背中を叩かれ、驚きながら見ると山菜と空野の3人でニヤニヤしながらこっちを見ていた。…いや、意味が分からない。何でいきなり…
「聞くまでもないですよ〜!バレバレですから!」
「うんうん」
…何か、楽しそうだな。
「大丈夫だ、安心しろ!藍花には言わないから」
「それは当たり前のことだよな」
………あ。口が滑った。
「あ、今の発言からしたら、藍花先輩が好きって認めたことになりますよね!」
「…なるね…!」
3人は未だにニヤニヤしながら迫ってくる。…怖い。
「…そうだよ。好きだけど」
「認めた!」 「認めたね!」
さっさと認めろよみたいなこと言ったのはそっちじゃないかと心の中でツッコミを入れる。
「でも、急がないと捕られちゃうかも…」
いきなりの山菜の発言につい、え?と聞き返す。 そうすれば、多分もっといると思うけど…少なくとも霧野君と南沢先輩と、藍花ちゃんと1番付き合いの長い狩屋君は本気で狙ってるかな、と言う言葉が返って来た。数の多さに開いた口が塞がらなくなりそうだ。
「そんなにも…?」
狩屋と霧野は分かってたけど、…南沢先輩まで。
「当然だろ神童。それくらい分かってたんじゃねーのか?」
まぁ…確かに。鈴野の人気はサッカー部だけじゃないからな。もの凄い早さで出来た鈴野のファンクラブだって、鈴野が転入して1日も経たないうちにファンクラブ結成がどうのこうのって騒いでたし。 自慢とかではないけどそのうち俺や霧野みたいに告白ラッシュとかあるんだろうか。そう考えると、胸がキリキリして何だか嫌な気分になる。
「…まぁ、神童だから大丈夫だろうけどな…」
「……は?」
俺だから大丈夫?意味が分からない。何のことだ…?
「あっ、いや…?何でもない!」
「ちょっと、水鳥さん!!」
空野は慌てて瀬戸の方を見る。瀬戸はは、と乾いた笑いをもらしていた。
「…まぁ時間の問題かも。藍花ちゃんは可愛いからね!いい性格してるし」
「ちょっと天然っぽい所がまた可愛いですよね〜!頑張って下さい神童先輩」
「じゃ、あたしらも部屋に戻るなー!」
そう言って、空野と瀬戸はさっさと早歩きで帰って行く。
「シン様…。」
「ん…?」
「はい、コレ…」
山菜は俺の前にあるものを握っている手を差し出す。それを受け取ってみると、それは、髪を結ぶ用の黒いゴムだった。 山菜が何を思ってこれを渡してきたのかはすぐに予想が付いた。
「ふふ、チャンスを逃したらだめだよ」
「…え?ちょっ…」
「頑張れ」
待って、とそう言う前に山菜は駆け足で瀬戸と空野の方に向かっていった。俺は黒いゴムをきゅっと握りしめる。 そして小さく息を吐くと、3人が向かった逆の方向へ歩いて自分の部屋に向かった。
『──でも、急がないと捕られちゃうかもね♪』
山菜の言葉が脳内で繰り返される。
もし、そうなるならば。 俺が。…俺が、捕られる前に捕ってやる。
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