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〜霧野視点〜


鈴野が転入して二日目。サッカー部にプレイヤーとして勧誘し、放課後一緒に部室へ行くことになった。
そしたら浜野と倉間は鈴野を見て叫ぶし、南沢先輩はセクハラ発言するし。そして何より驚いたのが、狩屋と知り合いだったって事。
あの狩屋が、いつもと全然雰囲気が違った。ものすごい勢いで鈴野に抱きつくし。……でもその時の光景を見て、何だか少しモヤっとした。
そんで、確信したんだ。昨日の心のモヤモヤの原因も。確信したことによって何となく気持ちも晴れてすっきりした。……俺。どうやら鈴野が好きみたいだ。
しかしそう自覚してしまったことで余計に頭がこんがらがる。だってあれほど女子が苦手だった筈なのに。彼女と出会ってまだ2日も経っていないのに。自分の気持ちが理解できないことについ頭を抱えそうになった。
正直、周りがファンクラブばかりなせいで誰かを好きになることなんてあるのかと思ったくらいだ。だからこそ自分でもこの感情に名前がついて驚かないわけがなかった。まぁ、最初から鈴野は何だか他とは違う気がしていたからそれも理由の1つかもしれない。
───とにかく鈴野のこと好きな奴が誰であろうと、俺だって負けないよう頑張るしかないのだ。


「っはー……笑いすぎてしんどい……」

「なら聞かなきゃ良かっただろ!」


狩屋のネーミング集(と言っても2つしかない)を聞いて涙が出そうになるくらい笑い続けていた鈴野に、狩屋は照れながら怒っていた。て言うか狩屋のネーミングセンスありえなさすぎだろ?
必殺タクティクスのダブルウィングの名前を一年がキャラバンで考えてるときに、ランランランニングって狩屋が言ったのはまだ記憶に新しい。確かにあの時は爆笑したのを覚えている。
ドカーンジャンプは知らなかったが、それ以上にあみあみネットは素晴らしく最高にださいと思った。
……それにしても鈴野の笑顔は反則だと思う。何あれ可愛すぎか?笑ったとき何人か顔赤くしてたし、絶対みんなもそうだと思う。それを考えると……


「……敵、多くね……」


やっぱそう思うよな。


「何言ってるんですか……?」


俺がそう呟くと、訝しげな表情で聞いてきたのは狩屋だった。さっきまで鈴野の隣にいたような気がしたんだけど、いつの間に。


「……別に。て言うかお前放課後に告白されてただろ」

「何で知ってるんですか。」


そりゃあ……女子の話を聞いてしまったからだ。聞きたくて聞いたんじゃなくて、女子って話す声大きいから丸聞こえなんだよ。
狩屋は少し目を見開いたけどすぐ冷静さを取り戻して溜息をついた。まあその様子じゃ結果なんて丸わかりだよな。


「まぁどうせお前のことだから断ってるんだろうけど」

「当然。見たこともない先輩と付き合う方が可笑しいっすよ。どうせ外見だけで好きになったんでしょうしね。……霧野先輩だってこういうことはよく分かってるんじゃないですか?」

「確かにな、正直面倒で仕方がない」


俺も知らない奴にいきなり告られてOK出すとか、考えられないしな。


「第一、俺は本当の自分を見てくれる人しか好きにならないと思うし、本当の自分を好きになってくれる人じゃないと付き合いたくはないんで……」


……何か、狩屋が中々にカッコイイこと言ってる気がする。そして珍しく俺に向かって真剣な目でこっちを見てきた。いつもは嘲笑とかそんなんで腹立つけど。
俺は腕を組んだまま壁にすがった。
それに、と狩屋は何かを言いかけて止まる。不思議に思い彼をちらりと見てみると、狩屋は鈴野を見ていた。とても愛おしそうな目で。……コイツ。


「……俺、藍花以外は好きにならないと思います。」


まさかの。……いや、そんなことだろうとは思ったけれど。それにしても今ここでカミングアウトされるとは思ってもいなかった。
鈴野と……。鈴野とコイツは本音を言い合える仲って言っていたし、なんかいきなりハードルが高いじゃないか。俺はそう思い、一つ溜息をついた。


「……なんだよ。つうか何でそんなこと急に俺に言うんだ」

「何でって……牽制?」

「…………は、」

「俺、霧野先輩には負けませんから。」


…………は。何で分かったんだ。俺さっき確信したばっかりなのに。つーか宣誓布告かよ。狩屋のくせに。
狩屋はにやりといつも通りの怪しい笑みをしたままこちらを向いていた。


「お前、喧嘩売ってん───」

「はい。」


即答かよ。
まあ喧嘩ってよりこの牽制を期に諦めてくれとは思ってますけどね、と呟く狩屋の言いたいことは何となく分かった。鈴野モテそうだしな。
……でもだからと言って、ああそうですかって簡単に諦められるような性分でもないわけで。となると答えは一択しかない。
正直、狩屋に勝てるのか分からねぇけど、黙って見てるだけなんてことは絶対にしたくない。当然他の奴にもだ。


「じゃあその喧嘩、買うしかないな」





〜神童視点〜


「すまない、遅れた。」

「監督!」


そう言いながら部室に入って来たのは鬼道監督だった。みんなは監督の方へ駆け寄って遅いですよ〜などと次々に言っている。
そしてそんな鬼道監督の手には、沢山の紙と黄色と青のユニフォーム。俺が朝の内に放課後に入部希望者を連れて行くと伝えていたため準備してくれたのだろう。監督は辺りを見渡して、俺の隣にいる鈴野を見つけるとこちらに向かってきた。


「お前が入部希望者か?」

「……はい。鈴野藍花です」

「監督の鬼道だ。早速入部テストをする。これを着ろ。」


そう言って監督が彼女に渡していたのは『0』とかかれているユニフォームだった。……そんな数字のユニフォームがあったのか。
そしてどうやら鬼道監督は円堂監督と違ってきちんと入部テストをするらしい。これも相手の力量を見計らうためのものなのだろう。そう思っていると俺の学ランの裾を少し引っ張られた。ん?と思い振り向くと、ユニフォームを抱えて立つていた鈴野。


「どうした?」

「……いや、あの……えっと、更衣室ってどこかな、って……」


ああ、そうか。女子更衣室……って……ん?


「女子更衣室……ありましたっけ?」


空野の一言で辺りがしんと静まり返る。


「……女子更衣室……ない。」

「女子でプレイヤーとか今までにいなかったからなー。マネージャーは制服かその上からジャージ羽織るだけだったからまさか必要になるとは思わねーだろ?」


山菜と瀬戸も後から続けて言う。鈴野は確実に困ったような顔を見せていた。


「何?一緒に着替えんの?」

「南沢先輩死にますか?」

「霧野怖えよ!」

「あはは冗談ですよ。」


笑顔を崩さずに呟く霧野に南沢先輩が顔を青くする。少なくとも俺はあまり冗談のようには聞こえなかったけど。
みんなはうーん……と考えていると鬼道監督が小さく溜息をついた。そして口を開く。


「お前達が着替え終わったらそこを使うといいだろう。鍵付きのロッカーがあるんじゃないのか?」

「あっ!それだ!」


みんなはその手があったか!とか、それは盲点だった!みたいな顔で顔を見合わせていた。
……何かもう鈴野がサッカー部入る前提になってるな。



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