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〜神童視点〜
部活中。霧野がいつもより集中力がない。気が付けば違うところを見ているし、普段なら有り得ないミスをいくつかしていた。 体育の授業の時は全然そんなことなかったし、一体どうしたと言うのだろう。そう不思議に思いながら彼が向けている視線の先を追うと、部活を見学しているギャラリーの近くに鈴野の姿があった。どうやらファンクラブの近くにいる彼女の事が気になっていたようだ。確かにあのファンクラブの近くにいたら何をされるか分からないから心配だ。 だけど今は部活中。心配するのは分かるが、俺たちは次に幻影学園と戦う。練習を疎かにしていい訳がないのだ。 正直、俺も鈴野のことは心配だ。霧野の気持ちが分からない訳ないが……。
「霧野!集中しろ!」
霧野にそう叫ぶと、ハッとしたように「悪い!」と応えてボールを相手から奪いに行った。 それから少しだけ鈴野の様子を伺ったがもう既にその場所にはいなく、正門に向かって帰って行く鈴野を見かける。霧野も彼女が帰ったのを確認したのか、段々と本調子に戻ってきていた。……まあ狩屋と言い合っているほど元気なら、大丈夫そうだな。 安心出来ればこっちのものだ。その後の部活は集中することができ、気が付けば下校時間近く。あと少しで部活時間も終わろうとしていた。
「……今日はここまでだ!」
鬼道監督がみんなに向かってそう叫ぶ。それに反応し、部員全員が監督の元へ集まった。話が終わればその場で解散。疲れたー!なんて言いながら、それぞれが部室に戻っていった。 俺も同じように部室の更衣室でユニフォームから制服に着替え直し鞄を持つ。神童帰るぞ、と俺よりも少しだけ早く着替え終えて更衣室を出ようとしていた霧野に、俺は「ああ」と短く返して後を追った。 帰り道はいつものように適当な話をしながら帰る。
「俺さぁ、鈴野は絶対サッカー部プレイヤーとして入った方がいいと思うんだよな」
「……何で?」
「何でってそりゃあ……あれは絶対強いだろ。倉間や浜野を軽々と抜くぐらいだし。どんな練習してきたかは知らないけど」
いきなりあんなプレイ見せられて驚いたよな、と体育の授業を思い出しているのか空を見上げながら呟いた。 確かにあの時は驚いた。でも俺は、鈴野の他にサッカーが強い女の子を知っている。……残念ながら、その出会いも今となってはもう遠い昔の話だが。
「……まぁ、サッカー部に入ってくれたら確実に部内のレベルは上がるだろうな」
「だろ?明日にも説得してみよっかな……」
そう言って笑う霧野に、程々にしておけよとだけ言っておいた。サッカー部に入ってくれるのは大歓迎だ。ただ霧野の場合やりすぎないか少し心配になってくる。……まぁ、多分……基本的に冷静な判断が出来る奴だし大丈夫だとは思うけど。 そう思いながらいつもの道を歩いていると、近くにある公園が少し騒がしいことに気が付いた。小さい子のような泣き声とたまに怒鳴り散らした声が聞こえてくる。
「……行ってみるか?」
顔を見合わせれば、霧野がそう聞いた。それに小さく頷き、不思議に思った俺と霧野は公園を覗いて見ることにした。そしてその光景を目にして驚くことになる。 そこには1人の女の子と、5、6人の倒れている不良の姿があった。
「……は?……え、鈴野?」
霧野の言葉に一瞬耳を疑った。目を凝らして見ている霧野の視線の先へ目を向ければ、確かにそこには鈴野が立っていた。 イマイチ状況が把握できない。なぜこの公園に鈴野がいて、不良が倒れていて、子供たちが泣いているのだろうか。状況を把握するために頭を必死に回転させ、黙ったままじっと光景を見た。鈴野は目の前にあるサッカーボールを蹴り上げて持つと、子どもたちの方へ向かう。そしてしゃがむと微笑みながらボールを返していた。 なるほどな。まだまだ分からない不思議な点はあるが、やっと答えに辿り着いた。大まかなことは大体把握。どうやら子供たちのボールを鈴野が取り返したと言うことだろう。 くそガキが……と言いながら、男がフラついた足取りで立ち上がった。
「くそ……てめぇ調子にのりやがって!」
すぐに鈴野の元へ向かっていればよかったと後悔する。フラつきながらも鈴野の近くまで行った男が立ち上がった彼女を殴ったのだ。
「鈴野ッ!!」
俺と霧野は咄嗟に鈴野の方へ向かった。
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