どうしてあの人はあんなにも不器用なのかなあ、といつも思う。不器用っていうか極端っていうか。あんな愛情表現をしたところで、強烈なグーパンチを頂くに決まっている。そのことに何故気が付かないのか、甚だ謎だ。
「大丈夫ですか? 見たところ骨折れたりはしてないようですけどねえ」
「くっ…大丈夫だななこちゃん…これもお妙さんの愛情の裏返し…ぐはっ」
「血ィ吐きながら愛を語るのはやめてくださいね、もはやホラーなんで」
つい先ほどの話。土方さんが厳しい表情をしながら何かを引きずっていたので、その掴んでいるものを何気なく見ると、ボロ雑巾のような近藤さんだった。こちらに気づいた土方さんは近藤さんを文字通り丸投げしてきた。思わず避けたけれど。
彼の機嫌が悪いのは知っている。沖田さんの手によってマヨネーズが全てカラシにすり替えられていたらしい。
「どこにいやがんだコラァァア!!」
おお、怖い怖い。
たまたま通りかかった隊士の方のお手を拝借し、近藤さんを医務室まで運んでもらった。図体だけはしっかりしているので、わたしだけではとても運べやしない。その間にボウルに氷と水を、ビニール袋の中にまた氷と水とを入れた。
顔面ボコボコの我らが局長に、冷やしたタオルやら簡易の氷嚢やらを当てていく。討ち入りのときの傷より、あのお妙さんとやらにやられた傷の方が酷いとは一体どういうことなのか。お妙さん、あなたは一体何者ですか。
「本当に懲りないんですねえ…そのうち首でももがれるんじゃないですか」
「お妙さんに限ってそんなこと…ありそうで笑えないかも、ははは」
「まあ1回もがれちゃえば近藤さんはきもいって、そのツルツルの脳みそもようやく理解するかもしれませんけど」
「ななこちゃんは相変わらずマイペースだなあ、ははは。あれ、なんか目から温かい液体が」
「あら、どこか病気ですかねえ」
「あれ、この液体止まんないんだけど。ねえ、ドバドバでてくるんだけど」
「あははー」
天井を見つめながら涙を流す近藤さんを笑い飛ばし、擦り傷ができている箇所に消毒液をぶっかけた。
「ちょっ痛っ、めっちゃ痛いんだけど!? ななこちゃーん!?」
と、うるさい彼は無視だ。
ーーー本当に、謎。
「いつまであの人の尻を追っかけるんですか」
「そんなもん振り向いてくれるまでに決まっ、て痛ァァア! 待ってそこ青紫になってんだけどォ! つねらないでェェエ!」
この人が誰の尻を追っかけてようとわたしには関係ないのに。ボロボロのズタズタになっていても、それはお妙さんにストーカーする近藤さんのせいなのに。
どうして会ったことのない彼女にこんなにもイラついて、このどうしようもない男の背中を追ってしまうのか。
「…ねえ、近藤さん」
呼び掛けると涙目になってこちらを見た。なんだか今までにないぐらい気持ちが高揚していて、理由もなく笑みを浮かべてしまう。
「知ってました? わたしね、近藤さんのことが好きなんですよ? その女性の尻ばっか追いかけてないで早く振り向いてくださいね。現実見てください。あなたもうアラフォーですよ。好きになるより、好きでいてくれる人を捕まえるほうが効率が良いと思うんですけどねえ」
矢継ぎ早に伝えて、彼の顔を見ないままに部屋を退室する。
「えぇぇぇえ!?」
そんな野太い大絶叫を背中で受け止め、ふと、自分の頬が熱いことに気が付いた。
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