高校生設定
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 防音機能なし。自分たちが入っているのが丸わかりなうえ、足元に隙間あり。誰か人が来てしまうかもしれない、聞かれてしまうかもしれないと羞恥心を煽るオプション付き。
 そんな学校の女子トイレにて、ただ鍵をかけただけの簡素な密室内で男子生徒と向き合う。

「ねえ、ほんとにいいの?」

 しんと静まる空気の中、蓋の閉まった様式タイプの便座の上へ腰を下ろす土方くんを、わたしはじっと見下ろす。
 こちらがそう聞こうとも返事をしない彼は、傍目に見てわかるほど緊張していた。普段から表情の変化があまりないタイプとはいえ強張りすぎだろう。眼光が尖すぎて恐怖すら感じる。

「その、恥ずかしいだろうし別にいいよ? 見せてくれなくても」

 事の始まりは保健体育の授業だった。しかも内容が性に関するものだったのだ。そのうちのひとつに男性のマスターベーションについてがあった。セックスをしたことがあっても、男性のそういう行為は見たことがない。なんとなく知識はあったものの、へえ、と単純に興味が出た。彼氏に頼んだら見せてくれるのかなあ、とかなんとか考えていたら授業が終わった。
 起立、礼、ありがとうございましたー。いつもの風景だったが、クラスメイトの表情が固く見える。そりゃあそうかと感じながら着席し、筆記用具を片付けようとしたら消しゴムを落としてしまった。角が取れかかっており、丸みを帯びた白色は隣の席の下に転がっていく。それを拾ってくれたのが土方くんだった。
 お礼を言いながら受け取ったら指先が触れた。相手の手がぴくりと反応する。ふと土方くんの顔を見たら視線が交わったものの、ふいと逸らされてしまう。いつもより泳いでいる目。

 ああ、ね。あんな授業のあとだから気まずいんだ。

 感情の起伏をあまり見せることのない土方くんの、そんな何気ない挙動を可愛く思ってしまって、わたしはつい吹き出してしまった。そして「土方くん可愛い」とからかってしまった。

「お前こそ、いいのかよ」

 いつもより低く、呟くように言う土方くんはあの時、驚いたように目を見開いてからまた目を彷徨わせた。耳を赤くさせ、反論もできない様にこちらの加虐心が刺激される。
 だからひそひそ話をするように自分の口元へ手のひらを寄せて見せた。すると案外素直に耳を近づけてくれたので、またからかってしまった。土方くんもするの? マスターベーション、と。
 土方くんはものの見事に固まった。今度は顔を真っ赤にさせて口元を手で覆っている。これはまた可愛らしい、と感じたら更に欲が出てきた。なんとなくで付き合った、大して格好良くない自分の彼氏のよりも土方くんのそういうところを見てみたい。どんな表情を浮かべながらするんだろう。
 きっとわたしは意地の悪い顔をしながら聞いたと思う。「するとこ見せてよ」って。絶対にたちの悪い冗談だと思われて、沖田くんにするように無視されると思ったら、違った。「テメー言ったからな」と言って、彼は前を向いたのだ。

「わたしは、うん、興味あるし」

 そして放課後、有無を言わさず腕を引かれた。生徒があまり使わない校舎の男子トイレに入っていこうとするので、そこはなんとか女子トイレにしてもらって現在に至る。

 わたしだってこの状況下に緊張しているし、土方くんのように足元を見つめたい気分だ。だけどそうしていても時間が過ぎるだけだし、何もないならこの息の詰まりそうな雰囲気から早く逃げたい。

「なんだよ、変態かよ」
「ごめん」

 調子に乗り過ぎたし、勢いで言い過ぎた。だから素直に謝罪の言葉が出た。それを聞いた土方くんは、乱暴に頭を掻いてからちらりと見上げてくる。

「その…見る代わりに手伝えよ」
「…え?」

 大きな手が伸びてきて、わたしの腕を掴む。強い力で引かれてはバランスを崩し、土方くんの顔に胸を押し付けるような体勢になってしまった。
 制服の裾から指先が侵入してくるのに、わたしは体を強張らせてしまった。

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