学パロ
 ふわふわふわ。わたがしみたいに揺れる銀色の髪に、何故か心を惹きつけられる。さわってみたい。だけど彼とわたしの間にある距離はそんなことさせてくれないんだろうなあ。

 授業中、机に肘をついて目をつむる。すぐにウトウトし始めてあっという間に夢の入り口へこんにちは。次に、うすーく目を開けたとき、あのふわふわのわたがしが目の前で揺れていた。ーーーあれ? こんな近くにあるじゃないか。
 寝ぼけ眼でそれに手をやると、手触りは思っていたよりさらさらだった。くるくるとカールする毛先を指に絡める。

「ちょ、ななこちゃんてば大胆ー」

 タイミングよく聞こえたその声にハッと目を見開く。ようよう見るとそのわたがしは夢でもなんでもなくて、髪を触られたご本人がくるりと振り返る。その死んだ魚の目なんて揶揄される瞳が真っ直ぐにこちらへ向けられる。

 あれ。自分の前は坂田くんじゃなかったはず…。きょろきょろと周りを見回すとクラス内の生徒は動き回ったりお弁当を広げたりしていて、授業なんてとっくに終わっていることに気が付いた。

「ご、ごめん…寝ぼけてて」

 前へかがめていた背筋を伸ばして、ふたりの間の距離を広げた。状況を理解できた途端に、心臓がようやく仕事をし始めた。ドドドド、と早鐘のように鳴るそれは、前の席に座る坂田くんに聞こえてしまいそうなほど大きい音だ。

「いや、別にいいけど…ってか顔真っ赤だぜ」
「え!? あ、うそ!?」

 実のところ、坂田くんとちゃんと話したのは初めてだ。なのに髪の毛なんか触っちゃって、しかも顔赤いとか言われるとどうしようもなくテンパってしまう。そんなわたしをじっと見つめる彼はいたずらっ子みたいにニッと笑った。

「なんだよななこちゃん可愛いなァ。俺の息子が元気にならァ」
「えっ坂田くんの息子? えっお父さんなの?」

 そう真顔で聞き返すと、坂田くんはぽかんとして「冗談だよ冗談」と続けた。空気の読めないボケ殺しをしてしまい少々申し訳なくなる。

「そんなウブなななこちゃんがなんで俺の髪の毛さわってたかってのは聞かねーから、代わりにひとつお願いあんだけどよ」

 せっかく距離を開けたというのに、こちらの机に頬杖をついて遠慮なく縮めてくる。近さなんか気にした様子もなく、さらにはその大きな骨っぽい手を伸ばしてきた。

「俺もそれ、触ってみたかったんだよねー」

 「真っ直ぐだしー黒髪だしー」と低い声で言いながら、伸ばされる指は許可なく自分のド直毛に触れた。わたしが坂田くんにそうしたように、毛先を指先にくるくる絡ませている。
 そうするためにこちらへ乗り出されるもんだから、せっかくあけた距離がさらに詰まった。わたしは居眠りしている間にずいぶんと端に座ってしまっていたらしい。坂田くんの急な接近に思わず背中を反らせたら、ぐらりとバランスを崩して、間抜けにも椅子から落ちた。

 ついでに恋にも落ちた。雷に打たれたような衝撃だった。

 「わりーわりー」と悪びれた様子もなく差し出された手を掴んだ自分のソレは震えている。お礼を言って離そうとしたらぎゅうっと握り締められた。男の人の手を握るのなんか初めてだった。ワケがわからなくて戸惑ったら、唇に柔らかいものが触れた。ーーーここは教室のど真ん中だというのに。

 元より椅子から落ちたせいで視線を片っ端から集めていた。ワッと教室が沸いた。ひゅーひゅーと囃し立てられるなか、手は未だに離れない。

「ごめん、なんかかわいーし、つい」

 つい、でキスなんかするなァァア!! そうパニックになったら血圧が下がりくらりと体が揺れた。重力がなくなったのに痛みはやってこない。

 まどろむ意識が覚醒したら保健室で、真っ白いシーツの上だった。そして彼氏ができていた。初彼こと坂田くんは、ベッドのすぐ側にパイプ椅子を寄せて座っていた。
 相変わらずワケがわからなかったけど小首を傾げて「ダメ?」とか聞かれたら首を横に振るしかなかった。ダメじゃないです。むしろ好きです。

 するとまた唇が降ってきた。何だ今日は、白昼夢でも見ているのか。火照る顔もそのままに坂田くんを見上げると、いつになく真剣な瞳と目が合う。

「…ロストバージンしちゃう?」
「へっ、変態がいますううう!!」

 バキィ!! と顔を殴って保健室から飛び出した。

 思ったことは色々ある。抜粋するなら、ーーークッソ好き。なんだあれ! バカヤロウ!! とそこで気づく。あれでときめく自分も相当バカじゃねーかよ、と。

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