なんというか、自分には勿体無い女だなあとは思う。
 万事屋なんて不安定な職はまだしも、従業員が子ども2人。パッと聞く限り怪しさしかねえ男じゃねーか。なのにアイツは"銀ちゃんがいいの"と笑う。家事全般を完璧にこなし、金銭管理もばっちり。顔は可愛らしいしスタイルもいい。性格は控えめ、癒し系。

「銀さんには本当に勿体無い女性ですよね」
「本当アル。そのうち捨てられるネ」
「んだよおめーら、アイツは俺から滲み出る人柄の良さを感じ取ってだなァ」
「なんですかそれ。今までちょっとも感じたことありませんけど」
「ほっとくネ、新八。滲み出てるのが加齢臭だって信じたくないだけヨ」
「黙って聞いてりゃなんだ、彼氏彼女いないひがみですかァ? ったくこれだからモテねー奴らは。そんなんだから画面の中のアイドルとしか喋れねーんだよ」
「それ主に僕のことですよね!? 神楽ちゃんは!? なんで僕だけェェエ!?」

 ぎゃーぎゃー騒ぐガキどもをのらりくらり交わしながら、内心ちょっとは動揺した。捨てられるのか俺、なんて考えた。だけどアイツは変わらず俺の隣で笑ってたし、このままずっとこの関係が続くだろう。そう思っていたけれど、一度、心の隅に巣食った不安はそう簡単には消せないもので。

「お前っていつもそうだよな」

 あるとき、完璧が故にこちらをなんにも頼ってくれない彼女に苛立った。

 俺はお前にとってなんだよ。付き合うって何かこうもっと支え合ってくもんなんじゃねえの? 続けて、そんな質問を投げかけようとしたのに言葉は続かなかった。目の前で、時を刻むのを忘れたかのように静止した彼女が、大きく見開いた目から一筋の雫をこぼしたからだ。

「ごめ、そんなつもりじゃ、ごめん、ごめんね」

 必死になって謝る彼女は溢れ出る涙を隠すように俯いて、部屋から飛び出していった。「あれ、なんだこれ」思わず口から溜め息のように言葉が漏れる。そして後悔。なんであんな低く、冷たく、突き放してしまったんだろうって。

…………


「嫌われちゃうのかなって辛くなったの」

 泣いていたアイツよりもどうしてかこちらの方がショックが大きい気がして、誰もいない部屋で座り込んでいたけど、このままじゃどうにもならないと重たい腰を上げた。
 大丈夫。アイツを見つけて謝って、もうちょっと俺のこと頼れよって声かけて、手ェ繋いで帰って。アイツの作るうまい飯かきこんで、同じ布団で今日も寝るんだ。銀さん今晩は頑張っちゃうからね、なんてアホなこと考えて歌舞伎町を歩いて回って、そして、ーーー失笑、した。

 ぐすぐすと鼻を鳴らすアイツはよりにもよって、1番相手にしてほしくない奴のすぐ側で泣いていた。アイツを見つめる土方の目は見たことねーぐらい優しくて、あの瞳孔野郎そんな目できんのかよって笑えて、笑えて、

「…んだよ」

 絞り出した声は、掠れてた。

 アイツは俺に気づいたけど、土方に引き止められてさ、熱い口づけなんかされちゃってさ。咄嗟に駆け出したね。なにしてんだテメーって。でもふと我に返っちゃってさ。だって俺、知ってるからね。さっき野郎の背中に手ェ回してたの。
 やめろよ、その手は俺んだろって思った。その唇だって、今まで見たことなかった泣き顔も俺だけのものだろーがって。

 弱々しく、土方の手を振りほどいたアイツはその場に座り込んじまった。顔を小さな手で覆って、肩を揺らして、たぶんすげー泣いてんだと思う。だけど俺ァ、ただ見てるだけで精一杯だった。当事者だったはずなのに、いつの間にやらバックグラウンドになった気分だ。

 ほら、「俺なら、泣かせねえぞ」なんて湯でも沸かせそうなあっつい告白してんじゃん。「土方さん…」なんて涙ながらに名前呼ぶなんてフラグ立ちまくりじゃん。
 あれ、なにやってんだ俺。バカじゃねえの、糖尿病まっしぐらな甘い未来を信じてたの俺だけかよ。いや、そうなるだろうと甘んじてたのも俺だけだったんだろうな。

 差し出された手にアイツの指が絡んだのを確認してから、俺は背を向ける。

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