神様はいない | ナノ

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 また、一楽の味噌ラーメンを一緒に食べながら約束を交わした。
 何かあればひとりで悩まずに相談すること。自分だけで抱え込むから今回みたいに暴走することになるんだと厳しいお言葉を頂戴した。その通りだったので素直に頷く。

「いつか言ったよね。ひとりになりたいなら止めないけど見つけられるところでそうすること」

 その言葉ひとつひとつが心に染み込んでいく。ひび割れた箇所が修復されていくようだった。

「あと、」
「無理に笑わなくてもいい、ともおっしゃいましたね」
「…うん、そう。そうなんだけど」
「はい?」
「そろそろ名前で呼んでくれない?」

 先に食べ終わっていたはたけさんが、ひと呼吸分、間を開けてからそう言う。…名前。ズルズルと麺をすすっていたのを、変なタイミングで飲み込んでしまって噎せた。
 胸をトントン叩いて咳を止めることに必死になる。大きな手が背中に触れて、ゆっくり上下にさすってくれた。しばらくして落ち着き、水をひとくち飲む。

「名前、ですか」
「また先輩で上司だから呼べないって言うんでしょ」
「そう思うのならどうして…」
「オレ、七瀬の上司のつもりないよ」
「…はあ」

 意味がよくわからず、ただ息を吐いただけのような間抜けな返事をしてしまった。こちらを見るはたけさんの表情は真剣そのもので、ジョークを言っている雰囲気などではない。
 あなたが上司でもなんでもないなら、一体何に当てはまるというのか。そんな疑問が頭をもたげた頃に、はたけさんが続ける。

「そういうのも大事だよ。けど、…友達ぐらいにはなれるでしょうよ」
「…トモダチ?」
「なんでそんなカタコトなの」
「いえ、恐らく初めて口に出したもので…」

 トモダチ。不思議な言葉だった。そしてこれまた不思議な気分になった。今の今まで、そういう仲だと自覚した間柄の人はいただろうか。いや…いない。
 仲間と呼べる人はいた。スリーマンセルを組む、あのチームメイトふたりが恐らくそれにあたる。けどこの人は彼らよりずっと近しい。ならば確かに。わたしたちの関係をトモダチと呼ぶのが正解かもしれない。

「こういうのは確認してなるもんじゃないと思うけど…ハッキリ言わないとお前はわかんないでしょ」
「その様ですね…」
「だから、ほら」

 その言葉が何を促しているのか、さすがに理解できた。持っていた箸を置いて、隣に座るはたけさんをじっと見る。ーーー優しげだった。どんなことでも受け止めてくれそうな、そんな目をしていた。

 これだけお世話になっていて、その願いを聞き入れないわけにはいかない気がした。まずは胸の中でその名前を呼んでみる。…なんだか慣れない。だがウジウジしていてもどうしようもない。意を決して口を開く。





「あー! カカシ先生! 俺とは一緒にラーメン食べてくれないのになんでななこちゃんとは食べてるんだってばよ!?」

 背後で誰かが、自分の声をあっさり掻き消すほどのボリュームで言う。振り返ると黄色い髪をした男の子が立っていた。その横には、鼻に真一文字に走る傷を負った男性もいた。

「こらナルト! 急にそんな大声出すんじゃない!」
「だってえ! 聞いてよイルカ先生!!」

 その子の登場により話の腰をあっさり折られた。どうしたものかと隣を見ると、呆れたように溜め息をつくはたけさん、…いやカカシさんの姿が。
 わたしは、思い出したように自分の食べていたラーメンの残りをすする。

「…また、今度にしましょう」
「本当に呼んでくれるの?」
「ええ、だってまたこうして会ってくれるんでしょう?」

 そう聞き返すと珍しく呆気にとられたようで、一瞬目を見開いていた。また何かややこしいことを言ってしまったのか? 疑問に思うが、はたけさんが笑ったのを見てそれはすぐに払拭される。

「…お前には敵わないな」
「わたしよりもあなたの方が強いですが…」
「素直に受け取りすぎ」

 これまた珍しく声を上げて笑うその人は、やけに機嫌がいいように見えた。
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