神様はいない | ナノ

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 もうそろそろ風呂から出ようかという頃、扉の外からはたけさんの声がした。

「服どうする? オレのだけど、着替え持ってこようか」
「あ、あー…いつもなら遠慮するんですが…今日はお言葉に甘えたいような…」
「珍しいね。ダメもとだったんだけど聞いてみるもんだ」

 前はいつ着替えたかも覚えていないので、正直なところあれらに袖を通したくなかった。これだけ迷惑をかけているのにまだお世話になるのかとげんなりしたが、あの服ではたけさんの横に再び立つのも気が引ける。

「一応小さそうなの探してみるよ」
「選べるような立場でないのはわかっています。それ着てすぐに家に帰りますので、普段着ていないようなものお願いします」
「もう帰るの?」
「これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかないので」

 そんな会話をしていると次第に頭がぼんやりしてきた。控えめに腹が鳴る。しばらく食事を摂っていないので長湯は体に障ったらしい。危険を感じて湯船から立ち上がるとくらりと体が揺れた。しっかりしない足取りで扉へと近付き、半ば体を預けるようにしながら浴室から出る。
 目の前の棚にタオルが用意されていたので、それで体の水分を拭き取る。さっきまでより幾分か低い室温の中で立っていると、前に置かれた棚がぐにゃりと婉曲した。視界が暗くなっていく。

「七瀬が着れそうなの、何着か持ってきたけど、ーーー」

 また扉の外からはたけさんの声が聞こえたが、後半からよく聞き取れない。立っていられなくなり、その場に尻もちをついた。するとすぐに肩を抱きとめられたように思う。力が入らず、だらりと首を後ろへ枝垂れさせてしまう。焦ったような声が遠くから聞こえた。
 目を閉じてしばらくそうしていると、気持ち悪さが徐々に和らいでいく。薄目を開けて、支えになってくれているであろう人を見る。目が合うなりほうっと安堵の息を吐いたのが聞こえた。

「ちょっと、大丈夫?」
「すみません、立ちくらみがして…」

 そんなとき、また腹が鳴った。それを聞くなり彼は笑う。

「何か作ろうか。嫌いなものないよね?」
「…ないですが、本当に申し訳ございません」
「いいの、いいの。こういう時は謝るんじゃなくてさ」
「…ありがとうございます」
「うん、どういたしまして」

 わたしをしっかり座らせて、はたけさんは立ち上がった。これ、と差し出された服を受け取って、髪から滴る水滴を拭う。

「…ボロボロだなあ」

 自然と溜め息が漏れた。
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