神様はいない | ナノ

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 転がる、数体の屍。それらが装備する額当てを目視で確認する。………木の葉のマークだ。恐らく最初に派遣された忍者たちだろう。
 その中央に立つ3人の男。彼らに気づかれないよう、気配を消して木の陰から様子を観察する。周りの草木がところどころ焦げている。爆発音が聞こえたと言っていた。誰かの忍術か、わたしたちをおびき寄せるための策か。
 彼らの顔を確認しようと目を凝らす。それらにどこか見覚えがあるように感じた。

「手配書で見た顔だ。どこの里の抜け忍だったかな…」

 隣で小さくそう呟く言葉にはたと思い出す。確か砂隠れの里から回ってきた書類の中に、最重要としてそれらを確認するよう通達があった。
 相手はまだこちらに気付いてはいない。奇襲をかけるなら間違いなく今だ。だけど相手の能力、実力ともに未知数で、人数的には分が悪い。
 動くか、待機か。指示を仰ごうと右隣に腰を下ろすはたけさんを見る。額当てと黒いマスクで顔のほとんどを覆っていることと立ち位置のせいで、彼の表情は全くわからない。

「不意を突こうか、…七瀬?」

 くるりとこちらを向いたのでタイミングよく目が合う。いつもはやる気が希薄に見える瞳も今は鋭い。じっとそれを見、深呼吸をする。そして口角を持ち上げて、いつもの笑顔を見せる。

「大丈夫です、いきましょう。わたしはサポートですか」
「ああ、背中は任せたよ」
「任せてくださいと言い切るほうがいいんでしょうね」
「そういう正直なところ、いいね。いつもの通りの七瀬だ」

 にこりと微笑んだのを最後に、纏う空気が変わる。



 少し頷いたのを合図に、はたけさんが物音ひとつ立てずに飛び出す。瞬時に手に持ったクナイで、一番手前立っていた、大きな刀を担いだ男の首元をなんの迷いもなく狙うが、相手もなかなかの手練れだったらしい。奇襲をかけられたことに驚いた表情を浮かべつつも、はたけさんの一撃を間一髪で避けている。
 わたしはというと相手の男が後ろに飛び退くと予想し、すでにその背後へと回っていた。予想は見事的中する。こちらへ背中を向けながら後退してきたので、無防備な側頭部に、体を倒して全体重を乗せた蹴りを叩き込む。

 鈍い音を立てて、それは綺麗に決まった。なんの受け身も取らずに地面へ倒れこむところへトドメを。足のホルダーから取り出したクナイを両手で持ち、心の臓を狙って深く突き刺した。濁った悲鳴を上げて吐血するのを一瞥し、その他の気配へと意識を向ける。

「ぎゃははは! アイツもうやられてんぞ! しかも女に!」

 彼らは仲間なのだろうと勝手に思っていたが、この状況を見て大声で笑うということは違ったか。それとも、どこかズレた感覚を持った人たちなのか。
 残りのふたりと距離を取るはたけさんの元へ跳躍する。

「すみません、生け捕りのほうがよかったですか」
「…いや、温いこと言ってるとこちらがやられかねない」

 だからそれでいいよ。相手から目を離さずに言うのに「はい」と短く返事した。今のはラッキーだった。奇襲作戦がうまくいき、人数的には同等。あとは力勝負になる。

「いいねえ、お前コピー忍者のカカシだろ? 今度こそ当たりだな」
「君はどうせカカシとやるんだろう? あの子は僕がもらっていいかな」
「相変わらず好きだなあ、お前キモい」
「うるさいな。だって、」

 勝手に下される采配。奴らはタイマンをお望みだ。上司のサポートに徹するなら回避するのが吉だけど、そう上手くはいかないだろう。
 彼らの言葉の選択からふと、快楽殺人という言葉が浮かんだ。戦闘によりその対象を傷つけること、そして死に追いやることに喜びを感じるタイプ。彼らがそれに当てはまるのなら、何故、抜け忍になったのかの理由を意図せず知ってしまった気がする。

「タイプなんだよね、君の顔立ち」
「…っ!」

 瞬時に背後を取られ、弾かれるように前へ飛び退く。地面の上で前転し、適度な距離を取った。身を屈めたまま後方を確認すると、相手は口角を持ち上げて嫌らしい笑みを浮かべていた。もう片方は猪突猛進といったふうにはたけさんに殴りかかる。それを避ける彼とともに遠のいていく。
 やられた。完全に一対一に持ち込まれてしまった。

「まあまあ、そんな顔しないで。楽しめると思うんだ、僕たちは。…ほら、向こうは向こうで盛り上がっているだろう」

 ゆらりゆらりと揺れながら至極楽しそうに言う相手を、じっと見据える。

「ええ、そうですね」

 立ち上がり、いつものように口角を持ち上げる。地に着いた両足で砂を踏みしめ、少し腰を落とした。右手はホルダーへ、左手は前方へ。

「お手柔らかにお願いしますよ」

 相手は変わらず、嫌らしい笑みを浮かべている。目標を定めて地面を強く蹴った。
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