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「もう1年経つんだよなァ」

 あんな出会い頭のことを思い出してしまったのは目の前でチョコパフェを頬張る坂田くんの、そんな何気ない一言からだった。

 女性客で溢れるカフェの可愛らしい店内をもろともせず、どっかり腰を下ろす姿に感服してしまう。その対面にいる自分のほうが肩身狭く、チーズケーキにフォークを刺している気がするからだ。

「素朴で震えまくってたななこちゃんもすっかりシティガールになっちまって…」
「シティガールって。言い方もっとなかったの」

 笑いそうになりながらも、どこか芯が冷えているように感じた。…なんでまた、ふたりきりでこんなことになってんだか。断りきれない自分が情けなかった。



 今日は大きく店舗を構える家電量販店に来ていた。日曜日で大学は休みだったので、朝から一通り家のことを片付けてから電車に飛び乗った。目的はこれからの必需品、エアコンだ。
 去年の夏、毎晩繰り返される灼熱の地獄にほとほと疲れ、仕送りとバイト代をコツコツ貯め始めた。そしてようやくその時を迎え、来たる季節のために遠出までして品揃えの良さそうなところへ繰り出した。

 そこは自分の家よりもどちらかというと大学のほうが近いような位置にあったので、購入品を配送してくれるか不安だったがギリギリオーケーとのこと。安堵しつつ店員さんに色々と相談しながら目標を達成した。
 お会計も設置の日取りの予約も済ませて、さて帰ろうかと、ぐるりと踵を返したところで見慣れた銀髪が目に入る。その人は出入り口付近に特設された扇風機コーナーの前に立っていた。

 帰るにはどうしてもそこを通らなければならない。気付かないフリも、…無視なんか到底できるはずもなく。

「坂田くん」

 "どうしたの"と"偶然だね"どちらを付け加えるか一瞬悩んだけどそれは杞憂に終わった。

「おー偶然だな、こんなとこで会うなんてよ。どうした?」

 最初は顔だけでこちらを見たけど、わたしの姿を確認したらしっかりと向かい合ってくれた。そして言いたいことを全て代弁してくれた坂田くんは、そよそよと吹く風にわたがしみたいな髪を揺らしている。だからこなした用事をそのまま伝えて、…じゃあね、と手を振るタイミングを見つけられなかった。

「じゃあもう用事終わり? 今から時間ある?」

 畳み掛けるように質問されて口ごもったこちらの、ぐるぐる渦巻く心境をあっさり見通されたのか、返事をする前に手首を掴まれる。

「友美はバイト。俺は壊れた扇風機の代わりを買いに来たとこなんだけど、ななこちゃんがいるなら行ってみてえとこあってよ」

 実はじりじりと後ずさりをしていたんだけど、それはあっさりとできなくなって、周りに見られているような気がしたらもうダメだった。

「少しなら…」
「まじかよ。よかった、誘ってみるもんだな」

 自分の目線は未だ繋がれたままの手元にやっていたが、思わず顔を上げてしまった。なんだか声が弾んでいるような気がしたからだ。

「最近このへんにケーキ屋ができたらしいんだけど、美味いんだってよ。なんかイートインスペース作ってあるらしくって」

 嬉しそうに微笑まれては、顔に熱が集まってしまう。引かれる箇所ももうじんじん波打つぐらい熱くて、誘われるがままに、向けられた背中に着いていくしかなかった。

 
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