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「寝坊したの?」
「うん…ありがとう、連絡くれて」

 なんとか2限目の講義開始には間に合ったが、みんなはわたしの格好を見て笑っていた。そりゃあそうか。髪はボサボサだし、化粧もせず日焼け止めのみ。
 更に失敗したのが、羽織ったシャツが自分のものではなかったということだ。飛び乗った電車の中で気付いたがもう遅い。サイズの大きい白色を何度も見下ろして、自己嫌悪に陥った。

 その状態で昼休憩まで過ごした。ようやく長い時間、手が空くので鏡の前に立ってみる。確かに、これは笑われるだろう。顔は普段から化粧は濃くないので少々の違いだけで済んでいるが、問題は髪だった。前からはわからない部分にひどい寝癖が一箇所あったのだ。
 すでに午前中はこの状態で過ごしてしまっている。半ば諦めながら水分で湿らせて、跳ねが全く直らない毛先を見つめた。


………


「珍しいね。ななこが寝坊なんて」

 学食にて。あの状況の中お弁当なんか持ってこれるわけないので、みんなと同じように定食を食べていた、そんなときだった。わたしの対面に座る友美が、何気なくそう言うのに周りも頷く。

「何かよく眠れたみたいで…」

 ははは、と適当に笑いながら返事する。すると彼女が急に話題を変えた。

「ねえ、彼氏できたの?」
「えっ? 誰に?」
「もう、そんなの決まってるじゃん! ななこにだよ」

 意味がよくわからなかった。どこをどう切り取ってみたらそういう結論に至るのだろう。不思議に思ったのが表情にもよく出ていたようで「ほら、それ」と指をさして指摘される。…先にあるのは自分の着ているシャツ。

「メンズのでしょ? 合わせもレディースと反対だしサイズも大きいし…彼氏に借りたのかなって。絶対そうだと思ったんだけど」
「ち、違う違う! これはちょっと買うの間違えただけで…家着にしてたんだけど急いでたし着てきちゃったんだ」

 都会の女子とはこんなにも目ざといものなのかと身震いした。着ている衣服ひとつでこんな話題をぶっ込んでくるなんて末恐ろしい。
 その場で思いついた言い訳を言い連ねて必死に否定したら、なんとか信じてもらえたようだ。

「なーんだ…あ、でもそれ繋がりでみんなに報告したいことあるんだよね」

 頬をほんのり朱に染めて、隣に座る坂田くんに腕を絡ませる。その行動だけでこちらはしっかり理解した。
 やっぱり、あのあと家に行ったんだね。言葉に出せるはずもなく、そっと心の中で呟く。

「銀ちゃんと付き合うことになりましたー!」

 その言葉に、坂田くんと友美以外のふたりがわっと声を上げて喜んだ。

「そうなの? おめでとー! 実は…私たちも最近付き合い始めたんだ」
「ええ!? 知らなかったあ、早く言ってよ」

 キラキラした表情で会話する女子ふたりを見ながら、自分もきっと笑えていると思う。

「みんな、おめでとう」

 坂田くんに見られたような気がしたけど、そちらに目を向けることはしない。だけど思いの外、彼のことを気にしないでいられていた。そうなることに思い当たる節はある。
 そういえばあの人ちゃんと家に帰ったのかなあ、と頭はもう、別のことを考え出していた。

 
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