俺は今悩みに悩んでいる。小さな箱を握りしめて…。


事件に幕を下ろし、平和になったこの世界で、俺は幸せをつかみたいと思うようになった。
だが、俺の思う幸せとは何だ?
そういった疑問が頭をよぎった。俺は考えをまとめる際、紙に書き出す癖がある。
紙を広げ、ペンを持ち、思いつく限りの幸せを書こうとした。しかし、書けない。ある文字を除いて。
ある文字というのが“コトネ”この名前だけしか俺は書くことができなかった。

「コトネと一緒になれたら、俺は幸せになれるのか?」

呟いた言葉は誰に聞かれることも無く、消えた。

三日ほど考えた。けれど、答えはいつも一緒。
なら、そう言うことなのだろう。俺は宝石店に行き、指輪を注文した。
出来上がった指輪を受け取った後も自問自答を繰り返す。そして今に至るわけだが…。

「ハート、用事って何?」

チャンピオンという座に就き、なかなか時間のとれないコトネに無理を言って来てもらった。
そして、俺の気持ちを言おうとした時に気づいた。

俺…まだ告白すらしてなかった…。

「俺の馬鹿やろおぉぉぉっ!!!」
「ど、どうしたの?」

告白すっ飛ばしてプロポーズしようとする俺って一体何だ?馬鹿なの?死ぬの?
なんて幻聴まで聞こえた気がした。
穴があったら入りたい…。

「大丈夫、ハート?」
「ごめんコトネ、順番すっ飛ばしちまってるが…、俺…お前と、っ…」
「私と?」

言葉を発しようとする唇が震える。落ち着け、よく考えた結果だろう。
大きく息を吸い、吐いた。

「俺と結婚してほしいんだ。俺は、お前と生涯を共にしたいんだ!」
「それと、お前のことが好きだ…」

心臓の音がうるさい。ドクドクと鼓動を刻んでいる。
返事を待つ俺だが、こうもうるさくては聞こえない。

「……びっくりした、まさか、プロポーズされると思わなかったは」

照れくさそうに笑うコトネ。
俺はつい目線をそらしてしまう。早く、返事が欲しい。

「ねぇ、指輪とかないの?私…生涯を共にするって決めた人からここに、指輪をはめて貰うのが憧れだったの。なんか、せがんでる感じがするなって、自分でも思うんだけど…」
「指輪ならある、けど…それって…」

俺に左手を差し出すコトネ。


「私を、貴方だけのものに、してください」


震える手でポケットから小さな箱を取り出す。その中に入っている指輪を手に取り、コトネの薬指にはめる。
しばらくその指輪を眺めるコトネ。
俺達の間にどことなく甘酸っぱい沈黙が流れる。
俺は高鳴る鼓動を気にすることなく、ただコトネを見つめていた。

「夢みたい…。ハートのお嫁さんになるの、ずっと願ってたの。私、今世界一幸せな女の子だわ」

本当に幸せそうに微笑むコトネ。俺の出した答えは間違っていなかったようだ。




今俺達は、世界で一番、幸せな恋人。







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