翌日の昼休み。じゃんけんで一発負けしたのであっさり友人たちに飲み物のパシリをさせられた。ココアとレモンティーとカフェオレと……言われた飲み物を頭の中で忘れないように繰り返し復唱しつつ自販機に辿り着いてお金を投入する。人が並んでいないのをいいことに押し間違えないよう慎重に押していると、横から指が伸びてきてアップルジュースのボタンがあっさり押される。
驚いてぱっと後ろを振り向くと悪戯に細められた赤い目を目が合う。赤司くんだ。

「何してるの……っていうかアップル今ので売り切れだし……」
「何って飲み物買いにきたんだよ」
「そうじゃなくてそのアップル私のお金だし……アップル売り切れだし……。っていうか赤司くんて果実飲料系とか飲むんだね、意外。それはともかく私のアップルだからそのアップル返して」
「はい」

あっさり手渡されて逆に戸惑う。え、自分が飲むんじゃないの、と赤司くんに言えば「いや別に」と答えられた。「一度横から自販機のボタン押してみたかっただけ」赤司くんはそう言って笑った。あ、何、意外と無邪気なのこの人。

「っていうかどうして分かったの?」
「実は心が読めるんだ」
「え、嘘」
「うん、嘘だよ」
「…………赤司くんの冗談って本気かどうか全然分からないんだけど」
「よく言われる」

自販機から飲み物を全部取り出して教室に戻ろうとすると右腕を掴まえられた。片手で器用にコインを投入していく赤司くんを見ながらこの人小銭とか持ってるんだなぁ、とどうでもいいことが頭を掠めた。別に振り払えないほど強く掴まれているわけではないが、特に振り払うべき理由もないので留められたままにじっとしている。

「ちゃんと教室にいてくれてほっとしたよ」
「……また明日って言ったもの」
「うん」

缶コーヒーのボタンを押して赤司くんは自然な動作でそれを取り出す。

「行かないの?」
「行っていいの?」
「勿論」

赤司くんは少しだけ笑ってぱっと手を離した。ひらりと軽い調子で振られた手のひらには首を傾げて応えておいた。



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