沙雪のペースを考えてのこともあるのだろうが、ゆっくりと丁寧に折り目をつけていく赤司の指先を見ながら、やっぱり手先は器用なのかと妙な感心が過った。バスケをやっているからだろうか。いやただ単に赤司自身の性質なのだろうか。

「作ってどうするつもりなんだ?」
「へ? ……ああいや、千羽鶴にしようと思って」
「お姉さんに?」

真意を探るようにこちらを見つめてくる赤司に沙雪は内心少々戸惑いながら「そうだね、」と答える。沙雪の行動を姉と結びつけるのは分かる。だがなぜ赤司は探りを入れるように尋ねてくるのだろう。まさか内心がばれているだとか? 否、ばれるような行動はこの数日間とっていないはずだ。ではなぜ。

「それにしては危篤の知らせの時は冷たかったね」

割に直球に疑問を投げられて手が止まる。もっと遠回しな言い回しでもしてくれれば煙に巻けるのに。いやそれをさせないためにあえて直球できているのか。

「……何が言いたいの?」
「純粋に意図を知りたいだけだよ」

そのくせ自分の真意を明かすつもりはないのか。
__ああもう嫌だ面倒くさい。そもそも嫌いなのだ腹の探り合いなどという実態の掴めないことは。それにどれだけ頭をフル回転させようと目の前の赤髪を煙に巻くことができないことくらいは把握しているのだし。
沙雪は辟易の感情を隠すことなくため息をついて折り紙を折った。合わせて続きを折りながら、赤司は「もう降参?」と言わんばかりにこちらを見ている。

「言う必要ないでしょ、赤司くんにそんなこと」
「俺は是非とも知りたいけどね」
「教えたくない」

オブラートに包むことなくつっけんどんに突っぱねると赤司は僅かに目を細めた。

「今の方が君らしいのに、どうしていつもは違う態度でいるんだ?」

まるで誰かの真似でもしているみたいだね。そういう赤司に沙雪は遠慮会釈なく眉を顰めてせせら笑うように息をもらす。

「他人と接する時は誰しも多少の意図した人格形成を行うものでしょ。それと変わらないよ」
「君のは度が過ぎるように思うけどね。まるで怖がってるみたいだ」
「何を怖がってるって言いたいの?」
「さあ。それは君自身の方がよく知ってるんじゃないかな」

それは勿論そうだろう。他人より当人の方が自分のことを理解している。だが赤司は本当に分からなくてそう言っているわけではないだろう。分かった上ではぐらかしている。恐らくは沙雪自身が見て見ぬ振りをしている感情から目を逸らさせないようにするために。
知ったかぶりしないでよ。苛立ちは言葉にはしないものの表情には思い切り出てしまったらしい。赤司は苦笑して折り鶴の先を折り返して広げた。どうやらこれで完成のようで、よく見かける折り鶴の格好になっていた。
沙雪も同じ作業をして完成させるとぽいと机の上に放り投げた。

「それじゃあ俺はもう行くね。また明日」
「……赤司くん、」

立ち上がって教室を出ようとする赤司に呼びかけると、彼は意外そうに振り返った。引き止めるとは思っていなかったのだろうか。

「教えてくれてありがとう。お礼にひとつだけ教えてあげるね。これは私の最後の復讐なの」



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