一周年企画 | ナノ
青峰と今度の休日でかけるので服についてのアドバイスがほしいといった旨のメールを黄瀬に送信したところ快い承諾の言葉と『その日は名字っちにできる最大限のおしゃれをしてきてね!』との言葉を受信した。
それを受けて朝__否昨日の夜からクローゼットにある全ての服をひっくり返して悩みに悩みまくるという少女漫画のヒロインさながらの行動を経て待ち合わせ場所に向かうと、黄瀬は開口一番「あれ、割と普通っスね地味だけど」と発した。ねえちょっと失礼すぎやしないかな黄瀬君。

「割と普通ってどういうこと」
「黒子っちに相当ひどいみたいなこと言われたから……黒子っちがひどいと言うことは相当だろうと思って……」
「……テツヤにだけは言われたくない」

無地ポロジーパンのくせに……。と恨み言を呟くと「さすが幼馴染」と思わず、といった風に黄瀬が零した。そのさすがという言葉について小一時間ほど問い詰めたい。
冗談はともかくとして改めて黄瀬を見直すといつも雑誌に載っているような格好とは別の感じでシンプルだ。(ちなみに雑誌は黄瀬本人から送られてくる)

「……黄瀬君も私服意外と地味な方なの?」
「ちょ、モデル捕まえといて地味とかないっスよー! 名字っちに合わせてるのー」
「あ、そうなんだ、ありがと」
「どういたしまして。そんじゃー行こっか」
「どこに?」
「っ、そこのショッピングモール! 目的地分かってなかったの!?」
「ああ、ユニクロあるとこ」
「すでにして価値観の差が!」

服屋さんとかどこにあるかあんまり知らないから。と言えば呆れたようにため息を吐かれた。何なのこの「仕方ないなぁ」って感じのため息。
まあでも目的地も分かったことだしさっさと行きましょうか、と歩き出す。黄瀬が何やらごそごそしていたので不審に思って見上げると(恐らく伊達であろう)茶色フレームの眼鏡をかけてこちらを見下ろし、綺麗にウインクを決めてくれた。

「目立つとねー」

ああ、ファンに捕まるから。

***

目的地に着いて何軒か連れ回されながら思ったのは果たして黄瀬は一体何語を話しているのだろうと言うことである。とっぷす? ぼとむす? シャツ……はさすがに分かる。にっとって何。多分カタカナで表すのだろうということは分かるのだが、日本人なら日本語喋りましょうよ黄瀬君。
もちろん装飾の多い綺麗な服に女の子心が刺激されないのかと言われればそりゃあ刺激されるけれども。きゅんときた服もいくつかあったし可愛いなーと思う服もあったけれど。(そう思った服はなぜかすべて黄瀬の試着候補に入っていたので多分分かりやすく見つめていたのだと思う)
そもそも似合うの? と、これが一番の不安なのである。カワイイお洋服とか子供の頃に幾度か着た程度である。そしてその幾度かにはいい思い出がひとつもない。
その懸念を詳細はぼかしつつ黄瀬に伝えてみるときょとんとした目で見下ろされた。

「名字っちフツーに可愛い服着たらフツーに可愛いっスよ?」
「……うそぉ」
「その真剣な疑いの目すごい傷つく! ホントホント!」
「二回繰り返した言葉は信用しちゃいけないってテツヤが」
「名字っちの中の黒子っちってどんなポジションなんスか!」

黄瀬はこほんと仕切り直しとばかりにわざとらしく咳払いをして「名字っち、自己卑下いくない。ゼッタイ」とどこぞの外国人のような言葉遣いでそう言ってピシッと人差し指で名字を指差した。指差しはダメ、ゼッタイって教わりませんでしたか黄瀬君。

「真に可愛くない子に可愛いと言えるほど俺は人間できてないっス」
「あ、うん、それは知ってる」
「即座に納得されちゃう俺。笑えない。……っていうかそもそも俺は名字っちに似合う服を探してるんスからそこら辺は安心してくれていいっスよ」

ね。と同意を求められて複雑な心境のまま頷く。黄瀬のセンスを信用していないわけではなく、自分を信用できないのだがこのニュアンスが伝わるかどうかは怪しいところである。

***

最初に提示していた予算内に見事収めた手腕に拍手を送ってからベンチにぐったりと座り込んだ。そもそもこういうところは慣れていないから疲労感も倍増である。

「なんか疲れた……」
「お疲れー」

はい、と目の前に差し出されたペットボトルにお礼を言ってから口をつけた。自分にとっては異世界のような場所のここで、飲み慣れた味のするお茶はなんだかすごく癒しに感じる。

「煎茶至福……」
「で、で。どうっスか俺のトータルコーディネート」
「すごく可愛いです……」
「名字っちテンション低いよ」
「疲れたのー」

なぜ黄瀬は平気なんだ。慣れてるからか、そうか。
いやしかし服が可愛いのは本当のことなのでそんなに恨めしいような目で見ないでほしい。本心だ。他意はない。

「でも本当にありがとう。助かりました」
「どういたしまして。青峰っちも唸ること間違いナシっスよ! ……多分」
「多分なのね」
「青峰っちそういうの疎い気がする」
「それはすごく同感」

髪を切ったことを申告しても「へー」の一言で終わらせるタイプだと認識している。別にそもそもオシャレしたことに青峰が気づかなくたって構わないのだ。出来るだけの努力をしたと自分が知っていたらそれで満足できるし、可愛い格好で隣を歩きたいというのは自分自身の願望でしかないのだし。可愛いの一言がさらっと言えるような素直な性格をしていないことも知っているし。

「いいよ。あたしがオシャレしたいんだもん」

その言葉を聞いて黄瀬はぱちぱちと意外そうに何度か瞬きを繰り返し、しばらく唸ってから悪戯っぽく笑いかけてきた。

「なーんか、お互いの理解が深まった感じ?」
「……それはどうかな……」
「中学の時より阿吽の呼吸って感じ。名字っちちょっと素直になったよね。青峰っちに対して」
「いいの悪いの」
「いいんじゃないっスかー?」
「黄瀬君雑」

黄瀬はわざとらしくうんざりしたため息を吐いて聞こえよがしに「なーんだかなー」と不満をもらす態勢である。

「今日はこう、間近で砂糖水延々飲まされてる気分だったっスわ。お幸せにー」
「……嘘、惚気てた?」
「所々態度で惚気られた」
「何それ」

名字が黄瀬の不可解な言い草に眉を顰めて首を傾げると、黄瀬はそれを見て笑みをもらした。

「ま、デート頑張って。あと名字っちが可愛いのはホントだから自信持っていいっスよ。ほら、よく言うじゃないスか」

意味あり気にためられた間にきょとんと黄瀬を見上げる。黄瀬は本日一番の素敵な笑顔で言い放った。

「恋する女の子は可愛いって」

意味を理解するのに数秒かかり、理解しきって「なんっ……!?」と反論する前に黄瀬は「じゃーまたデートの詳細聞かせてねー」と去って行った。
無意味に上げられた体温は行き場なく名字の中にしばらく溜め込まれた。

20150515


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