それぞれを歩む
※あまり夢っぽくない。成り代わりネタ苦手な方は注意。
彼にはいつだって触れられない何かがあった。青峰君が練習を飛び出した時も、紫原君が練習に来なくなった時も、どこか諦めた顔でいつも通りの彼でいた。仕方ないと諦めているのか、何も変わらないと落胆しているのか。
「結局誰も変わらないよ。お前がいてもいなくても、俺がいてもいなくても。変わるとしたら時間だけだ。壊れるのが遅いか早いか。だったら、どうだっていいことだ。お前が何をしたってもう誰も変わりはしないよ、黒子。お前は何も間違っていない。だからこそそれは間違いなんだ。何らかの転機を作るとすれば、お前はどこかで間違うべきだった」
彼は恐ろしいほど冷静に、自分の役割を理解し、こなし、不足はないが過分でもない働きかけをずっと行ってきたのだと、その言葉ですべてを理解した。ならば僕は、__否もういっそのこと飾るまい、ならば私は、どこかで間違いを犯すべきだった。黒子テツヤという人を壊すほどの間違いを犯すべきだったのだ。それはひいては彼らの安寧を守ることに他ならなかったのだから。
「__赤司君、君は、」
「黒子」
彼は私の言葉を遮り、ゆらりと、『赤司征十郎とは別の』危なげのない笑顔を浮かべて私に言った。
「今までありがとう。楽しかった。けれどお前はもう俺に必要ないよ。____消えてほしい」
そうか。君がそれを望むなら、私は敢えて抵抗はするまい。最後まで演じて見せようか、君が望む黒子テツヤを。
「分かりました。でも僕からもひとつだけお願いがあります」
何だと目線で促した彼に私は、僕は笑って言った。
「忘れないで下さい。君にみんなと過ごした時間があること。その中で君が一時であろうと心から笑っていたこと」
忘れないでほしい。一緒に笑いあったその事実だけは。他の何を差し置いたとしたって、どうかそのことだけは忘れないで。
彼は苦笑を洩らして「善処しよう」と僕を見た。
「それじゃあ、また。__」
風に切られて途切れた言葉。それでも確かに聞こえた僕の__私の名前。
ああ、きっと私は、
赤司君、君がどうしようもなく好きだった。
20150228 それぞれを歩む
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解釈はお任せ。