無題


モブ女子→長編主
視点子の方も名前変換できる仕様なので、どちらも同じ名前にしている方は変えた方がいいです。





話したことはなかった。小学校と中学校の時に何度か同じクラスになったことがある程度。彼は幼馴染の少年と大体一緒にいて、けれど幼馴染の少年と違って友達は多くて、女の子に優しくて、いつも明るくて人気があって。何だか私なんかとは住む世界が違うなぁなんて思っていた。
高校に入ってもそれは全然変わらなくて。まあ彼自身はかっこよさにさらに磨きがかかって人気は上がっていたけれど。
だから、彼にしてみたらきっとすごく些細なこと。

「名字さん、」

知らない声だと思ったのは、自分の名前を呼ばれたことがなかったから。一瞬だけ考えてそれが彼の声だと気づいた時には大きく胸が脈打った。

「これ、落としたよ」

そう言って彼が差し出したのは髪留め。弾みでスカートのポケットから落ちたのだろう。呆然としたまま何も言わず髪留めを受け取る私に彼は不思議そうに首を傾げる。

「名字さん?」

心地いい、アルトの穏やかな声。私を呼んでいるんだと思うとその声はいっそ艶やかなほどの甘美な響きを含むようで。声をかけられた、とはしゃぐ女の子の気持ちも分かるようだ。だって、こんなにも甘い、
心配気に眉を下げて具合でも悪いの? と続いた彼の言葉を聞いてやっと我に返った。

「あ、ううん、その、そんなんじゃないの。えっと、何て言うか、」
「……体調は大丈夫なんだね」
「うん。あの、ごめんね。ありがとう、千秋君」

つい名前で呼んでしまって私なんかに呼ばれて不愉快じゃないかとかそんなことを思ったけれど、彼はあまり気にしていない様子で微笑を浮かべた。

「どういたしまして。また明日ね」

にこり
彼は爽やかな笑顔を見せると体育館の方へ向かっていった。鼻先を掠めた、清潔感のあるちょっといい匂い。シャンプーかな、整髪料かな。
ちょっと前まで、ときめきなんて分からないと思っていた。

でも恋なんて、存外その辺に転がっているものだ。




20141128

番外編の時は微妙に夢主を贔屓しすぎかなとたまに思います。



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