02


30分後。

「……で、捕まったわけだが」
「赤司やべぇよ、人間じゃねぇ……」
「なんでこの人数一気に捕まえられるんスか……!」
「そんなもの決まっているだろう」

心なしか引き締めた顔で言う赤司に皆の視線が集中する。赤司は堂々たる口振りでこう言い放った。

「俺だからだ」

このとき、一部の人間の思惑が一致した。
(赤司様、マジ赤司様)
――と。

「さて、ではそろそろ」

黒子はこほんと咳払いをひとつして普段の彼では考えられないほどの満面の笑みで告げた。

「コスプレターイムッ☆」
「いやもうほんとテツどうした!?」
「……あ、すみません、思わず緩みました」
「思わずって規模じゃないと思う……」

小さく突っ込みを口にした千秋に赤司と黒子が笑みを向ける。ぞわりと悪寒を感じた千秋は最も安全と思われる紫原の後ろに回り込んだ。

「えーちょっと千秋ちーん」
「待って、ごめん動かないで」
「まあそう逃げるな千秋」
「そうですよ千秋君。僕らは怖いことなんてしませんから」
「嫌だ! 絶対にする! だってもう既に目が怖い!」

ひぃっと縮みあがる千秋を後ろにして紫原は順調に菓子袋を空にしていく。驚くほどのマイペースぶりだ。
赤司はため息を吐くと「仕方ない、」と呟いた。

「紫原、良いものを見せてあげるから千秋から離れてくれるか?」
「良いもの〜? 分かったー」

俊敏な動きで紫原は千秋から離れる。

「え……いやちょ、待っ、待てって! 赤司落ち着け! 目がマジだから!」
「俺は落ち着いてるよ別に写メ撮りたいとか引き延ばして壁紙にしようだなんてそんな愚かなことは考えてない」
「動揺してるせいで内心だだ漏れだ! あと句読点ちゃんと打て! そこ! さつきちゃんも黄瀬もカメラ構えない! しかもどうして揃いもそろって一眼レフ!? 無駄だ! すごく無駄ないい画質だ!」

スチャ、と頭に軽いものが乗せられて、若干重い金属が首につけられる。

「……悪いみんな、俺は少し千秋を侮っていたのかもしれない」
「あれですね、『千秋君と言えど一応男なんだし猫耳プラス首輪が本気で似合うわけねーじゃん性別ww』という認識だったんですよね赤司君」
「……割とガチで可愛かった」

現実逃避で千秋がどこかに意識を飛ばしている間にも着々と現実は進んでいく。

「……赤司っち、なんか俺妙なせーへきに目覚めそうなんで早く外してほしいっス」
「破廉恥なのだよ……!」
「そう言いながら凝視してますよ緑間君」
「……我が生涯に、一片の悔いなし……!」
「さつきーしっかりしろー」
「……あ、お菓子なくなったー……」

赤司はふむ、と頷くとさっさと猫耳と首輪を取っ払い、ぺしっと千秋の頬に手を当てた。

「冗談だ千秋」
「……冗談にしては何枚か写真撮られた気がするんだけど」
「まあもちろんこれも見たかったが、ハロウィンの衣装はこれじゃない」

すっと差し出された次の衣装らしきものの中にも獣耳があるような気がするのは気のせいなのだろうか。

「えっ……うさぎ……?」
「ふたつの選択肢がある。ひとつは自分で着替える。もうひとつは俺に体をまさぐられながら脱がされる。どっちがいい?」
「うん、赤司、その発言はかなりギリギリだからな?」

にこにこと笑う赤司から衣装を受け取って、千秋は「自分で着替えます……」と返した。
一瞬心底残念そうに眉を下げたこいつの表情を俺は一生忘れない。
涙目になりながら隅の方で着替えていると、ほかのメンバーはそこまでの抵抗なく衣装を受け取り着替えていた。諦めの境地に達した者とわりかし楽しみだった者がいるのだろう。

「あっ私魔女だー! かわいいー!」
「……俺カボチャ……。ちょ、手抜きすぎじゃないっスか!?」
「ある意味一番ハロウィンっぽいぞ。安心しろ黄瀬」
「どこにどう安心しろと!?」
「これ何だ?」
「狼男ですね」
「……包帯? ミイラ男か何かか?」
「緑間君いつも包帯巻いてるので適任かと思いまして」
「これはテーピングなのだよ!」
「ねー赤ちん、これ何〜?」
「フランケンシュタインだな。正直衣装を探すのに手間取った」
「ふぅん。で、赤ちんは何なの?」
「俺は吸血鬼だ」
「……テツ、おまえは何もしねぇの?」
「僕もやってるじゃないですか」
「やってるってシーツ被ってるだけだろ?」
「絶賛仮装中ですよ。これぞ古くから伝わる伝統の仮装術、秘技『シーツでおばけ』です」
「でも黒子っち影薄いから仮装しなくても普段から簡易おばけっスよね」
「ぶん殴りますよ」

「楽しげなところ悪いんだけど、」と千秋が声をかけると非常に期待した目で振り向かれた。

「結局けもみみだし、これなんかどっかの童話で見たことのある格好なんだけど敢えて聞く。これは何の仮装なの?」
「『不思議の国のアリス』のうさぎ」
「それ絶対仮装じゃない。これ絶対仮装じゃない。もう既にハロウィンで仮装の定義が崩れてるんだけどなんかもうホントどうしたの?」
「千秋君可愛い!」
「ありがとうさつきちゃん、さつきちゃんも可愛いよ。けど男に可愛いは別に褒め言葉じゃないからね。どういう理屈なのか説明しろ赤司黒子」

赤司と黒子はきょとん、とした顔で千秋を見つめて「あまり気は進まないのですが、」と黒子が切り出した。

「管理人が……」
「やめて! お願いだからメタ発言に走るのやめて! ごめん俺が悪かった!」

心身を呈して懇願する千秋に黒子は口を閉じる。

「まあとりあえずそれは置いといて。特に理由はない」
「ああうん……そっか……」

まだそう言われる方が幾分かマシというものである。疲れたようにため息を吐く千秋に紫原が横から千秋の肩を叩く。

「千秋ちん、お菓子ある?」
「え、お菓子? ……ないけど」
「えーうっそだー。俺知ってるしー。千秋ちん今日女子からいっぱいお菓子もらったでしょー」
「えぇー。でも勝手に渡すのは悪いし……」
「女の子と俺とどっちが大事なのー?」
「何その妙に修羅場っぽい発言。……仕方ないなぁ」
「ありがとー。黄瀬ちんもちょうだい」
「え、俺もっスか? いいけど……」
「【怒れ!】即答するシャラモデルが、」
「そこはかとなくうざい【全国の非モテ】」
「そこ! ぼそっと言っても聞こえてるっスよ!」
「何のことだい?」

にっこりと無言の威圧を発する赤司に黄瀬は泣き寝入りをするしかない。うぅ……と涙を流す黄瀬に縋り付かれながら、千秋はそろそろ色々と面倒になってきたのでため息を吐いて口を開いた。

「幸いなことに明日の練習は10時からなので、これから俺の家にてお菓子パーティーをします。はい来る奴手ぇ挙げろー」

あっさりと全員の手が挙がったことを確認し、続ける。

「お菓子がなくなり次第解散。特例として1人ふたつまでコンビニでの購入を許可します。とりあえず学校からは出るぞ」
「千秋センセー、バナナはお菓子に入りますかー?」
「誰だんな馬鹿な質問した奴。さつきちゃん以外ならはったおしてやるから素直に手を挙げなさい。どう考えても入りません。あとコンビニで売ってんの?」
「え、千秋の、」
「はいそのネタ先が読めた! ガチホモネタ突っ込んでくるのやめろアウトだ」

千秋は本日もう何度目かも分からないため息を吐き、「とりあえず行くぞ」と呆れを滲ませて口元を緩めた。

(微妙にカッコつけてるけど千秋っち、まだウサミミ付けたままなんスよね)
(絶妙に転けてるけど千秋君のそんなところもかっこいい……!)



20141026

……色々ぶっ込みすぎた。



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