黄瀬(ちょっとした表記詐欺かも)

「そういや黄瀬がなんかテンション下がってたぞ」

偶然に並んで歩くことになった笠松に唐突にそう言われて、なまえは首を傾げる。
テンションが下がる、というのはまああれだが、それは果たして自分に関係のある話なのだろうか。

「付き合って三ヶ月経つのにデートまだしてないとかお前がわがまま言わなさすぎてつらいとか」

俺が知るかってんだ。
仏頂面でそう吐き捨てた笠松になまえは苦笑を洩らす。そう言いつつも面倒見のいいこの人のことだから、何かちょっとしたアドバイスでもしてあげたのだろう。
にしても、わがまま言わないからつらいと言われたのは初めてである。普通言わない子の方が面倒がなくて楽だろうに。
なまえは自分のセーターの袖を引っ張りながら、首を傾げた。

「求めるところが少ないのは元々の性質なんですけどねー。先輩も知ってるでしょ?」
「タメ使うな。あとそういうこと言うな。黄瀬に殺される」
「はぁい」

間延びした返事を送ったなまえに苦々しい表情を向けた後、「まあでも、」と話し始めた。

「あいつはわがまま言ってほしいんじゃないのか。構ってほしそうだし」
「涼太はねぇ……。でもそこまで構ってなかったですかね」
「バスケもモデルもあんだろ。中々お前との時間取れなくて四苦八苦してるんじゃないか」
「もー無理しないでって散々言ってるのになー」
「軽く惚気んのやめろ」
「あれ、惚気てるように聞こえました?」

ふふ、と笑うと苛ついた顔ででこぴんされた。__その扱いはひどくないか。

「涼太ってば毎日のようにメールやら電話やらしてくるので、それ以上は特に必要ないかなとか思っちゃうわけです」
「……」
「いやー毎日話せるだけで充分幸せと言いますか。あ、これは完全に惚気ですね。羨ましがっていいですよ」
「意味分からん」
「……先輩も早く彼女作ればいいのに」

笠松は再度顔を顰めて「うっせぇ、」と呟く。

「今しがた候補が1人減ったよ」

そう言い残すとさっさと目的地に歩いて行ってしまった。
なまえはきょとん、とその場に立ち止まって、足元に目を落とすと「馬鹿だなぁ」と苦笑した。

「『今更』ですよ、せんぱい」


end.




後書きっぽい何か。
補足すると、笠松先輩が元カレでしたというお話です。そして話を聞いててあぁこいつはもう完全に黄瀬のことが好きなんだなと分かって、諦めるっていう話。これむしろ笠松先輩夢な気がする。
で、ちょっと互いに別れ際のこと思い出して痛いなってお話。
でも次第に2人の中で『ちょっと痛い思い出』として風化されていきますねっていう伏線も含まれるとか含まれないとか。

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