黄瀬
「なぁに拗ねてるの」
帰り道、なまえに尋ねられて黄瀬は不満そうに口を尖らした。
「別に……拗ねてないっスよ」
「……そんなに嫌だったの? 私が笠松先輩と話すの」
その問いに黄瀬は顔を顰める。
「自分の彼女が他の男と楽しそうに話してて嬉しい奴がどこに居るんスか」
しかも俺の知ってる人だし、知り合いだって知らなかったし……心の準備できてないんスよ。黄瀬がそう続けるとなまえは思案するように首を傾げる。でも、と言った声はひたすらに無邪気だった。
「前に涼太、理想の女の子は束縛しない子って言ってたでしょう。してほしくないのに自分はするの?」
「そっ、それはぁ!」
黄瀬が焦って思わず声を大きくすると、なまえは唇の前に指を立てた。
黄瀬は気まずく顔を逸らす。
「その……あれは、本気で好きになった人とかそれまで居なくて……。だから、そのー……なまえに、なら、されてもいいっスよ、その、そくばく」
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。なまえその黄瀬の一世一代の告白に何ら動じることなく、至極冷静に言葉を返した。
「私別に束縛したいとかじゃないから。それに涼太、職業柄束縛癖のある彼女とか無理でしょ」
「ちょ、俺の覚悟返して!」
「やーだ」
あ、今の可愛い。一応喧嘩中の筈なのになまえの仕草にそう思う自分はもう色々と末期だ。
なまえは悪戯っ子のような笑顔で黄瀬を振り向く。
「でも束縛されるのは悪くないね」
「は、」
「愛されてるなー、私」
「なまえ、」
「じゃあもういっこ、涼太が動揺すること教えてあげる」
いや、できれば教えてもらいたくはないんスけど__その言葉は強制的に飲み込まされた。あまりにもなまえが綺麗に笑ったから。
「私が好きなのは涼太だけだよ」
輝くような笑顔でそう言うと、なまえはすぐに前を向いた。黄瀬の顔にじわじわと熱が集まる。自分だけ照れるなんて悔しい、そう思いながらなまえの背中を見つめると、揺れる髪から覗く耳朶が赤く染まっているのに気づいて、何とも言えない幸せな気持ちになった。
Fin.
黄瀬君は割と嫉妬する子だといいなぁという妄想。
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