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改めて見ると校舎大きいな…。海常高校の校門前に立って校舎を眺めていると体育館の方から黄瀬が「千秋っちー」と走ってきた。どこかしらで見たことのある光景である。

「一昨日ぶりっス!」
「おー」

2度目なので特に案内はいらないのだが、黄瀬なりの気遣いだろうからありがたく利用させてもらう。それにしても、

「本当にいいのか? 海常の体育館使って…。俺一応他校生なんだけど」

千秋が懸念を口にすると、黄瀬は不思議そうに首を傾げて言う。

「監督と笠松センパイには許可取ってるっスよ?」

そういうこっちゃないんだけど、と千秋が顔をしかめると黄瀬は笑顔になって続けた。

「千秋っちが何の心配してるかは知らないけど、元々俺のわがままなんだし千秋っちが気に病むことなんてないっスよ」

にこにこしながらそう言われればそれ以上食い下がる意味もない。千秋はため息を吐くと黄瀬に「あっそ」と答えた。

「ってゆーか心配なら千秋っちが海常(うち)くればいいのに」
「何でそうなんの。やだよ」
「えぇー」

***

体育館に入るとこの間の練習試合の時より部員が少ないような気がして黄瀬に尋ねてみると、「あんまりギャラリー増えるのはちょっと…それにコート結構広く使うでしょ?」と返ってきて納得した。監督やその他のメンバーにも挨拶をしてからいざ練習。

「そういや千秋っち、緑間っちのシュートは打てるんスよね? 打ってみてよ!」

はいじゃあランニングー、と言った声に被せてきた黄瀬に誤魔化しバレバレだろ、と軽く顔を顰める。オープンにした本日の練習メニューが一見しただけでも地獄のものだと分かったからだろう。ちなみに覗いた他のメンバーも息を飲んでいた。
ため息を吐いて、まあでもそれくらいならいいか、とボールを持つ。
だがさすがにコートの端から打てと言われても打てるわけがない。確かにあの技の最終的な進化系はコートの端から打てるようになることだが、それができたのはあくまで緑間だからであって、千秋がそれを完全に再現できるというわけじゃない。
千秋はハーフコートより少し手前の位置でフォームを構える。小さな乱れも許されない緊張感。それを味わうのも久しぶりな気がする。
それに3Pを打つこと自体、かなり久々かもしれない。そうなるとやはり厳しいな__。昔の勘を手繰り寄せるように指先に神経を集中し、脳裏に描くのは幼馴染の、数えきれないほど見たその瞬間。それをなぞるように呼吸を合わせて、放つ。
ボールは思い描いた軌道をそのまま辿って、リングに触れることなくゴールに収まった。
ほぅ、と安堵の息をもらす千秋とは対照的に周りの選手は感嘆の声を上げる。

「すっご…まんま緑間っちみたい」
「コートの端からは打てないよ」

そうなの? と首を傾げる黄瀬に苦笑して、ゴールの下に落ちたボールを拾い、黄瀬に投げ渡す。
千秋はまあどうせなら真太郎のやってみるかと呟き、それっぽく打ってみてと黄瀬にサインを出す。黄瀬は戸惑いながらフォームを取り、ボールを放るがリングに軽く掠って床に落ちた。

「やっぱ無理っスよー」
「リングには掠っただろ。初めてやってそれは上達する証拠。……多分」
「多分て」

リズムには少しのズレがあったがフォームに関しては言うことはない。そうなるとやはり違いは利き手__。

「それと左右対称の動きで打ってみろよ」
「右手でってことっスか?」
「そう。後は基盤を残しながら自分用に変換して慣れること。あくまでそれだけで戦うわけじゃないことは念頭に置いてな」
「…赤司っちと紫っちは?」

ついでに残り2人ももう聞いてしまおうと思ったのだろう。千秋は黄瀬の問いに暫し考え込んで口を開く。

「赤司…はまあ観察力を鍛える、ってところじゃないか、多分。ある意味では赤司の模倣(コピー)が一番やりやすいかもな」
「紫っちは?」
「紫原は……経験則を生かした予測とジャンプ力ってことになると思う。ただそれぞれ単体で勝負するにはやっぱり完成度の違いが出るから、複合技でカバーしながらになるな」

プレイ中も死ぬほど頭使わないといけないことになるけど大丈夫か? と尋ねると見くびらないでほしいっス! と返ってきた。「よゆーっスよよゆー!」__その自信は一体どこからくるのかと問い詰めたい。


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