13 朝から騒がしい体育館にバスケ以外の音が聞こえるのは珍しい、とリコと千秋は顔を見合わせる。 挨拶をして中に入ると騒いでいる中心には小さな雑種犬。リコは目を輝かせて、千秋はいくらか驚いたようにそれを見ていると日向が黒子が拾ってきた、と事情を説明してくれた。 「今時捨てるなんて人がまだ居たんですね」 「みたいだな」 「きゃー見て見て千秋君! 犬よ犬!」 「うん、犬だね」 リコにずい、と目の前に差し出されるが、犬よと言われては犬だねとしか返しようがない。それに若干不満そうな顔をされるが、どう言っても仕方ないのでとりあえず部室に行こうと背を向けると肩に重みが乗った。 「千秋君って動物に興味ないわよね」 「俺の生活スタイルに動物を愛でる項目はないからね」 「……でも動物にはよく懐かれるわよね」 「……だねぇ」 肩に乗った小さな重みはその犬の__日向によればテツヤ二号とのことだ__重さで、特に負担だというほどではないが耳回りを舐められるのはちょっといただけない。 「おい、こら、くすぐったいって。おーい二号ー」 「わんっ」 「いやわんじゃなくて」 そう言いながら肩から降ろして抱き上げる。大分人慣れしているようだし、前のうちで虐待などはされていないのだろう。それなら何よりである。 ふぅ、と息を吐いて体育館を見回すと普段なら一番中心にいそうな火神が隅で丸まっているのを見て首を傾げる。 「火神?」 「っぎゃー近寄んな! それ持って近寄んな!」 「…お前まさかとは思うけど、」 「犬駄目なんだよ!」 心底意外な事実発覚。何となく動物が好きそうなイメージがあった火神だが、黒子によればアメリカで犬に噛まれて以来怖いのだというらしい。 「……ほう」 「千秋君?」 これは面白そうだ、と口角を上げた千秋は黒子に二号を手渡す。即座に意図を理解した黒子は二号を持って火神に近づき、二号の肉球で火神をつんっと突っついた。 「っぎゃあああ!」 途端に上がる悲鳴が合図だったかのように黒子プラス二号対火神の鬼ごっこが始まる。 にやにやとそれを眺める千秋に先輩一同は(帝光ズ怖え……!)と内心を同じくしていた。 リコが呆れたように千秋の肩を叩く。 「程々でやめなさいよ」 「了解。黒子ーさすがにもうやめてやってー火神涙目」 「火神君情けないですよ」 「死ね! もうマジで2人とも死ね!」 恐怖心とは怖いものなのでこれ以上やっていたら火神に背中から刺される、と半ば真面目に馬鹿なことを考えていた千秋であった。 next |