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この人とバスケがやりたい。そう思って入部させてくれと頼んだはいいが、青髮の彼は「あ、おう…?」と言って首を傾げる。そして暫く悩むと体育館の奥に走って行った。
え、俺置いてきぼり? と呆然としていると奥から人を連れてきた。

「でさ、途中入部ってどうやんの?」
「は?」
「いれてくれって言われたんだけど俺わかんねーし、千秋なら分かるだろ」

会話から察するに彼が連れてきたのは千秋という人らしい。いや分からないのかよ、と黄瀬が内心突っ込みをいれていると、彼に押しやられて千秋というらしい人が黄瀬に訊ねる。

「えっと…お前誰?」
「千秋知らねーの!?」
「知らねーよ、あとその顔やめろ、なんかむかつく」
「今人気のモデル! 黄瀬……えぇと…」
「涼太っス……」
「いやお前もあんまり知らねーんじゃん」

心の突っ込みと千秋の突っ込みが被って奇妙な感動を覚える。千秋は「黄瀬涼太ね、」とフルネームで確認すると「そうは言ってもな」と困ったように頬を掻いた。

「入部どうこうは俺が決めることじゃないし…担任の先生にでも頼んで入部届もらったら記入してからバスケ部の事務室行って。顧問には入部希望者がいるって言っとくから」
「あ、ハイ」
「あと途中入部だと一年のやる雑用もやんなきゃいけないから。まあそんな感じでよろしく」

そう言うと千秋は彼を小突いて「早く練習戻れ。あんまりサボってたら増やされるぞ」と忠告する。彼は「うわやべっ」と走って練習に戻って行った。

「あーえっと…黄瀬、」
「はい」
「見学は自由だから」

それは見て行けということだろうか。黄瀬は首を傾げた。

***

なぁ、青峰に声をかけられて千秋は青峰を振り向いた。

「さっきの奴、一軍来れると思うか?」

どことなくわくわくした表情でそう言う青峰に千秋は呆れのため息を吐いて「さぁな」と答えた。青峰は不満そうに口を尖らす。

「さぁって…」
「それはあいつの努力と才能次第としか言えないからな」
「期待とかしねぇの?」
「仲間が増えれば嬉しいな。けど期待はしないし、もし来れなくても失望もしない」

断定的に言い切った千秋に青峰は目を細める。

「千秋ってさ、」
「ん?」
「そういうとこ、割とドライだよな」
「身内じゃないからな」

さほど気にする風でもなくそう答えて千秋は青峰に背を向けた。
千秋の『身内』の基準は割と狭い。家族と部活仲間、その外となれば恐らく2、3人居るか居ないかである。だが決して交友関係が狭いというわけではなく、むしろ大体の人には好かれる質で友人と呼べる人数は多い方だろう。そして割と、という言葉も交友関係の広さに比して、という話であって、常識外れに基準が高いというわけでもない。
ただひとつ言えることとしては、千秋は『身内』だと認めた人間に対しては基本的に寛容でありよく気にかけるが、その他大勢に対してはそこまでの興味を示さないということである。先ほどの人物に言ったように、期待もしなければ失望もしないといった風に。
だが、それが女子ともなれば話は別だとでも言うようにどんな人物でも基本的には気にかけるようになるのがややこしいところではある。そして本人にはたらしこんでいるという自覚はない。これも日々の教育の賜物というやつなのだろうか。非常にややこしいが。


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