10 昼休みに2年生に廊下に呼ばれた。というより、バスケ部全員が廊下に整列している。……いや何故だ。 「というわけで千秋、頼む、合宿に参加してくれ!」 「一斉に頭を下げないで下さい顔を上げて下さい何がどういうわけなのか最初からきっちり話して下さいお願いします」 それは、遡ること2日前__ *** リコの料理の上達を最早諦めた彼らバスケ部は、絶望的な表情で机に突っ伏していた。 しかし、黒子がふと思いついたように顔を上げる。 「そういえば、千秋君料理上手ですよ」 「マジか!」 救世主が現れた! とでもいうように部員全員の声が一斉にはもる。彼らが「これで合宿は安泰だ…」と幸福感に浸っていると、そんな彼らを奈落の底に突き落とすような言葉がリコから聞こえた。 「合宿なら千秋君来ないわよ」 「はっ!? 何で!?」 「何かその日出かける用事があるんだって。どうしてもって言うなら、とは言われたけど、まあわざわざキャンセルまでしてもらうことはないかなって」 あるわ! と部員全員の心がひとつになった。 *** 「__というわけなんだ……」 「…あーまあリコちゃん料理壊滅的ですもんね…」 千秋もそれを見越しての言い分だったのだが。2、3日とはいえ、リコに料理を任せると大変なことになりそうだ。 「頼む千秋。合宿参加してくれ」 日向に切実な顔で言われ、後ろにいる部員たちからの視線を受けて千秋は苦笑いを浮かべた。 リコは部員たちにこんな顔をさせる料理を振舞ったのか、とはとことしては微妙な気分だ。 「分かりました。いいですよ」 これで合宿の時の命の無事は保証された! と狂喜乱舞する部員たちを千秋は遠い目で見やる。 「まあでもあれでも随分マシになった方ですよ」 「え、そうなのか?」 「だって去年のバレンタインはちゃんと食べれたし」 「え、今まで食べれなかったの…!?」と戦慄する彼らに、千秋はそうじゃなくて、と付け足す。 「美味しくはないかもですけど、一応頑張ってますよってことです」 「ああ…まあそれは……」 分かってるよ、と微妙な顔で言われた。何だかんだで食べたのだろう、と分かって少し安堵する。苦手なのは一応自覚しているようで、それなりに頑張っている最中であるから、あまり直接は言ってほしくないと思っていたが、まあこれなら心配ないだろう。 next |