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バスケットボールの夏の全国大会、全国高等学校体育大会バスケットボール協議大会_通常インターハイと呼ばれる_は毎年8月に本戦が開催され、予選は今年GW明けすぐからである。
東京の予選参加校は300校以上。そのうちインターハイに参加することのできる学校は4ブロックあるトーナメントを勝ち抜き、さらに決勝リーグで上位3チームに残った学校のみである。確率論でいえばその切符を手にすることができる可能性は僅か1%未満__。

「とまあでも、さすがに予選一回戦で敗退ってのは…勘弁願いたいね」

千秋はそう呟いて柔軟を始めている誠凛選手たちを見下ろした。
ふわぁ、と欠伸を洩らした千秋に、聞き慣れた声がかかった。

「千秋……?」

千秋はその声に振り向いて、さほど意外でもなさそうに名前を呼んだ。

「真太郎か、久しぶり。……あれ、お友達も一緒?」

同じ制服を着た黒髪の少年を見やってそう言うと、千秋の幼馴染であり、キセキの世代の1人でもある緑間真太郎は眼鏡のブリッジを押し上げて嫌そうに顔を顰めた。

「別にこいつは友達などではないのだよ。……久しぶりだな」
「でも一緒に試合見に来る程度には仲良いんだろ? お前、名前は?」
「高尾和成でっす! 君が噂の“先代”柊千秋君?」

高尾のからかうような言葉に千秋は眉を顰め、呆れのため息を吐いた。

「その妙な異名ヤメテ。っつか噂のって?」
「いやぁ、よく真ちゃんが話してるからさー」
「真ちゃん?」
「緑間真太郎だから真ちゃん!」

千秋は数秒瞬きをした後、ぶはっと吹き出した。

「は、ははっ! そりゃいいな! 真ちゃんか!」
「笑うな千秋。あと高尾もその馴れ馴れしい呼び方はやめろと言っているだろう」
「えーいいじゃーん。俺と真ちゃんの仲だろー?」
「そんな風に言われる仲になった覚えはないのだよ」

その高尾と緑間のやりとりがまた千秋の笑いのツボを誘う。笑い声を何とか堪えて肩を小刻みに揺らしていると、緑間が苦々しい表情で千秋を小突いた。

「ふ、悪いって」
「笑いを堪えながら言われても説得力がないのだよ」
「はいはい」

ふぅ、と千秋が笑いを収めると、緑間は千秋の横に座った。高尾はその隣である。

「誠凛の試合見に来たんだ?」
「相手のセネガル人の留学生がどのようなものか気になっただけなのだよ」
「ふぅん」

にやにやしながら眺めていると頭をはたかれた。全くこの幼馴染は照れが極限になるとすぐ手が出て困る。

「そういえば、妹が寂しがっていたのだよ」
「あ、そう?」
「時間がある時にでも顔を見せてやれば喜ぶ」
「ん、そっか。じゃあ今度夜ご飯お邪魔しちゃおっと」

自分で作るのも飽きちゃったし、と呟くと、高尾が緑間の向こうから身を乗り出した。

「え、千秋クン自分で作ってんの!?」
「うん。俺両親ともアメリカでさ。1人暮らししてんだ」
「うっわすっげー!」
「大したことじゃないよ」

臆面もなく褒められて苦笑した。

「兄弟とかは?」
「俺ひとりっ子だから」
「へぇー……。にしても、真ちゃんと幼馴染って大変じゃね?」
「どういう意味なのだよ高尾」
「ああまあ…。大変っちゃ大変だけど、慣れたらそうでもないかな、割と」
「割とってどういう意味なのだよ」

不機嫌そうな緑間を笑って誤魔化す。あまり自分が話の俎上に乗るのを好まないのは相変わらずだ。


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