03

試合終了後である。100対98で誠凛高校が奇跡の勝利を治めた。正直おい黄瀬体なまってんぞと膝詰めで説教したくなる試合結果であった。
さすがに鬼畜かと落ち込ませておく。まあ良い薬にはなっただろう。

「千秋! 勝った!」
「うん知ってる見てた」

きらきらと輝く目で千秋にそう報告する火神がそろそろ犬にしか見えなくなってきた。ほんとどうしたこいつ。
褒めて褒めてというように目を輝かせているが、ひとつ言いたい。お前は190cmの男である。……勘弁してくれ。

「あ、リコちゃん、黒子病院連れてかなきゃ」
「あっそうね。近くにあった筈だから急いで行くわよ」

***

結局黒子に異常はなく、ほっとして病院を出たところで漸く勝ったという自覚が出てきたのだろう。先輩後輩問わず雰囲気が明るくなった。

「っしゃー! 勝ったー!」
「なぁ帰りどっかで食べてこうぜー」
「何にする?」
「安いもん。俺金ねぇわ」
「俺もー」
「僕も」
「ちょっと待て。お前ら交通費抜いて所持金いくら?」

部員たちが出した金額の合計は11円。盛り上がり掛けた雰囲気が一気に盛り下がり、部員たちは「帰るか……」「うん……」とお通夜状態である。
そんな中、リコは部員たちににっこりと微笑むと、

「大丈夫! むしろがっつりいこうか! 肉!」

その笑みに、千秋はまた変なこと考えてやがるな、と気づかれないようにため息を吐いた。
そしてその予感は当たり__、現在部員たちの前に置かれているのは超特盛4kgのステーキである。30分以内に完食すれば無料(タダ)になるというものだ。
部員たちは先ほどとは別の意味でお通夜のような雰囲気だ。

「遠慮せずいっちゃって!」
「がっつりいきすぎじゃねぇ!?」

火神と黒子以外の全部員がリコの無茶ぶりに突っ込む。

「えっ、つかちょ、マジ…? これ食べきれなかったらどうすんの!?」
「え? ……ちょっとぉー、なんの為に毎日走り込みしてると思ってんのー?」
「いやバスケだろ」
「逃げるわよ!」
「聞いてねーな……」

千秋が視線を部員たちに向けると、部員たちは千秋に縋るような目を向けてきた。
その目は「ちょ、千秋何とかして。この女マジで何とかして」と訴えている。

「……はー」

諦めのため息を吐いて、千秋は財布からカードを取り出した。

「この店支払いカード大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
「んじゃ食べ切れなかったら払っといて。俺外出てくる」

ぽん、とリコにカードを投げ渡して店を出た。後ろから聞こえるイケメンだ! 滅びろ! という声には聞こえない振りである。でもとりあえず滅びろっつった奴殺す。
携帯を弄くり回しながら待つこと1、2分。早くもギブアップしたらしい黒子が出てきた。

「早い」
「いや、もう無理です。お腹いっぱい…」

さすさすとお腹をさすりながら、黒子が横に並ぶ。
何か言葉を続けるべきか迷いながら口を開きかけると、先ほど別れたばかりの筈の声が聞こえた。

「あれ、千秋っちと黒子っちじゃないっスか」
「黄瀬」
「黄瀬君」

顔を上げると黄色い頭が見えた。

「何してんの?」
「帰りっスよ。……ちょうどよかった。話したいことがあるんスけど」
「俺はないけど」



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