06

「その、昨日の、ことなんだけど、」

心なしか震えているような夏目の言葉に青峰は少し眉を顰める。まさかまだ試合に関して言い足りないことでもあるのだろうか。
__まさか。確かに夏目は遠慮はないが青峰がそれなりにショックを受けていることくらい察している筈だし、そのことにそれ以上何かを言うような性格ではない。
怪訝な雰囲気を感じ取ったのか、夏目はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「試合、前の、」
「……ああ、」

夏目を問い詰めた時のことか。ついでにあの勝った笑みも思い出して多少気分が悪くなる。

「……ああいうの、やめてよ。あたしの交友関係、アンタに把握される謂れなんかないし、」

可愛げのない口調に不貞腐れて「別に訊くのは俺の勝手だろうが」と返す。
夏目の肩の線が強張るのが分かった。青峰は目を見開く。どこで言葉を間違えた、どこで夏目の地雷を踏んだ、__だがそんなことより、
泣く、と。そう思った。
顔は俯いているせいで見えないし、自分でもどうしてそう思ったか分からない。でも何となく、本能的に確信した。
けれどその確信とは裏腹に、夏目はやはり震えた声で言葉を続ける。

「そういうこっちゃないわよ馬鹿。……そうじゃなくて、」

ひと呼吸入れてゆっくりと。

「期待、するでしょ、ばか」

思考が止まった。
もちろんもともと青峰自身あまり頭脳派ではないが、明らかな思考停止。
__きたい、キタイ、期待。それはつまり、
考えるよりも先に口をついて言葉が出た。

「しろよ」

ぱっと顔を上げた夏目にもう一度聞かせるように、自分も意味を噛み砕くように。

「しろよ、期待」

そう呟いて、真っ正面から夏目の目を捉える。しっかり合わせて、逸らせないようにまっすぐに。
口の中が渇く。鼓動がやけに鳴り響いてうるさい。
口を開くまでの時間が妙に長く思えた。




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