番外編 | ナノ


*はじまりの一週間(三)






翌日、鬼灯は白澤の経営する極楽満月へ薬を取りに行くため、桃源郷へと来ていた。


いつもの口喧嘩をしつつ、ふと庭に目をやると、この間まで無かった花が目に入る。


「白澤さん、あれは…?」

「え?あぁ、椿だよ。この間知り合いに木を植えてもらったんだ。」

「椿……」


その名を聞き、鬼灯は琴音が椿の花が好きだと言っていたことを思い出した。


「何?お前、花に興味なんかあるの?」


怪訝そうに自身を見る白澤に、鬼灯は口を開いた。


「白澤さん、あれ、一輪もらえますか?」























仕事場に戻ってきた鬼灯を、琴音は笑顔で迎えた。


そんな琴音に鬼灯は先程、白澤からもらった椿の花を差し出す。


『これは…椿…!これ、どうなさったのですか?』

「桃源郷で見つけて、とある方にいただきました。琴音さん、お好きでしたよね?」

『えぇ、とても好きです…!』

「なら、よかったです。どうぞ。」

『私にくださるのですか?』

「えぇ。そのためにもらってきたのですから。」


鬼灯の言葉に琴音は嬉しそうに微笑むと、『ありがとうございます』と受け取った。


『久しぶりに見ました。やはり美しいですね…。』


うっとりとした表情でそっと花に触れる琴音。


その様子はとても絵になっていて、鬼灯はもらってきて
正解だったと思う半面、どこか切なげな表情の琴音に疑問を抱く。


「琴音さん。」

『はい?』

「気のせいなら申し訳ないのですが…椿の花が本当にお好きなんですよね?」

『はい。それがなにか…?』

「いえ、のわりには少し悲しげな表情をなさっているな…と。」

『!!』


鬼灯の言葉に僅かに目を見開く琴音。


そして鬼灯から椿に視線を戻すと、口を開いた。


『すごいですね、鬼灯様は。』

「え…?」

『昔、少し色々ありまして。一時期、椿が嫌になってしまった時があったんです。
それでも、またこうして好きになれたんですけど…やはり、まだどこかで
その時の気持ちが残っているのかもしれませんね…。』
























苦笑いを浮かべる琴音に鬼灯は、ゆっくりと近づき、その手をとった。


その行為に驚き、琴音は思わず鬼灯を見つめる。


「私からは何があったのかは聞きません。
ただ、あなたが悲しい気持ちを抱えているなら、私でよければ話を聞きますよ。」

『!!』

「話すことで、楽になることもあると思いますから。」

『鬼灯様……』


無表情だけれど、優しさのこもった目で自身を見つめる鬼灯に琴音は心が温かくなるのを感じた。


と、同時にトクン…と僅かに高鳴る鼓動。


その感覚に、どこか懐かしさを感じていると、鬼灯はすっ…と手を離した。


「すみません、いきなり。」

『いえ、とんでもないです。すごく、嬉しかったです…。』


柔らかく微笑む琴音に鬼灯は"なら、よかったです"と返した。


「では、私は閻魔大王に用事があるので、少し失礼しますね。」

『はい。』


"すぐ戻ります"と言って出ていく鬼灯を見送ると、琴音はそっと自身の手に反対の手を重ねた。


((鬼灯様……))


頭に浮かぶのは、先程の鬼灯の言葉と優しい眼差し。


もうとっくに離したはずなのに、鬼灯に触れられた手には、まだ温かさが残っているような気がした。






















「何をやっているんでしょうかね…私は。」


先程の自分の行為に、廊下を歩きながら鬼灯はため息をつく。


(けれど……)


鬼灯の脳裏には嬉しそうなのに、どこか悲しげな表情で椿を見つめていた琴音がよぎる。


(なぜか…無性に彼女を元気づけてあげたくなったんですよね…。)


「はぁ…話なんて聞けるわけがないのは考えれば分かったはずなんですけどね…。」


"彼女はあと数日でここを去るというのに…"と思った瞬間、とある疑問が浮かぶ。


(そういえば…なぜ1週間だけなんでしょうか?)


「…明日にでも聞いてみますかね…。」


ぽつりと呟きながら、鬼灯は足早に閻魔大王の元へ向かった。



To be continued…


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