*人見知りな男の子
「あ!琴音ちゃん。」
『閻魔様、こんにちは。』
鬼灯にお弁当を届けにやって来た琴音は、閻魔大王に挨拶する。
すると、一緒に来ていた萌衣梨もペコリと頭を下げた。
「こんにちは、閻魔様。いつもとうさまがお世話になってます。」
「こんにちは、萌衣梨ちゃん。君は本当にしっかりしてるなぁ〜。さすが鬼灯君の子だね!」
あははと笑う閻魔大王に萌衣梨もにっこりと微笑み返した。
『ほら、優杜希も挨拶なさい。』
琴音に言われ、後ろに隠れていた優杜希はほんの少し琴音の背中から顔を出す。
「こ、こんにちは…。」
「こんにちは、優杜希君。」
優杜希はピクリと肩を震わせると、また琴音の背中に隠れた。
『いつもすみません…。』
苦笑いする琴音に閻魔大王は"いやいや"と手を横に振る。
「優杜希君は人見知りなんだよねぇ。でも、琴音ちゃんも鬼灯君も人見知りじゃないよね?」
『今はそうなんですけど…私、小さいときは人見知りの泣き虫だったんです。』
「そうなの?」
『はい。ですから、そこが似たんだと思います。』
「へぇ〜。でもさぁ、優杜希君が琴音ちゃんに一番なついてるのは分かるんだけど、鬼灯君はどうだったの?怖がったりしなかった?」
「最初はあまりなつきませんでしたよ。」
その声に降り返ると、そこには鬼灯本人がいた。
『あ、鬼灯様』
琴音はにっこりと微笑むと、鬼灯にお弁当を差し出した。
『どうぞ』
「ありがとうございます。」
鬼灯がお弁当を受けとると、萌衣梨と優杜希は彼に駆け寄った。
「とうさま!あのね、私もお弁当作るの、お手伝いしたんだよ!」
「ぼくもぼくも!」
「そうなのですか?嬉しいですね。ありがとうございます。」
鬼灯が2人の頭を優しく撫でると、双子は嬉しそうに笑った。
「で、さっきの話ですが、優杜希は最初、私には…というより、琴音以外にはあまりなつかなかったんですよ。」
「やっぱりそうだったんだ。」
「えぇ。最初は名前を呼べばビクつき、抱き上げようものなら号泣してましたよ。」
「そ、それは相当だねぇ…;」
「でもあるとき…」
ある日のこと。
優杜希は琴音に連れられ、萌衣梨と共に買い物に来ていた。
人見知りの優杜希は琴音のそばを離れずにいたのだが、おもちゃ屋の前を通ると――
「わぁ〜!!」
優杜希は売ってあるおもちゃに釘付けになった。
「すごいなぁ〜!ねぇねぇ、かあさま!」
そう言ってくるりと横を向いたときには、隣にいたはずの琴音の姿はなかった。
「あ…れ…?かあさま…?」
途端に不安に襲われた優杜希はきょろきょろと辺りを見回した。
しかし、琴音の姿は見当たらない。
「かあさまっ…!!」
優杜希は母親を探すため、走り出した。
「かあさま…っ!めいりっ…!」
2人の名前を呼びながら探すも、中々見つからない。
「どうしようっ…うっ…ぐすっ…かあさまっ…かあさまっ…」
走り疲れた優杜希はぺたんと座り込み、ポロポロと泣き始めた。
「うっ…ぐすっ…」
(もう…かあさまに会えないのかな…)
と、その時――
「優杜希?」
聞きなれた声に振り返ると、鬼灯の姿があった。
「とう…さま…」
「!!」
優杜希の顔を見た鬼灯は目を見開くと、優杜希に駆け寄り、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「どうしたのですか!?誰かに何かされたのですか!?」
鬼灯の質問に優杜希はぶんぶんと首を横に振る。
「かあさまとっ…はぐれちゃったっ…探してもっ…見つからないっ…」
ポロポロと涙を溢す優杜希を鬼灯は優しく抱き締めた。
「!!」
優杜希はピクリと肩を震わせたが、不思議と怖くは感じなかった。
(とうさま…あったかい…かあさまと…いっしょ…)
その暖かな体温に心が落ち着いた優杜希は、鬼灯にぎゅっと抱きついた。
「!!」
優杜希の普段ではあり得ない行動に驚きつつ、鬼灯は息子の背中を優しく撫でる。
「大丈夫ですよ。今からとうさまがかあさまの所に連れていってあげます。」
「ほん…と…?」
「えぇ。」
そう言うと鬼灯は優杜希を抱き上げ、携帯を取りだし、電話をかけた。
「あ、もしもし、私です。えぇ、優杜希は私と一緒にいますよ。……分かりました。そこで落ち合いましょう。では。」
鬼灯電話を切ると、優杜希に視線を移す。
「さぁ、行きましょうか。」
待ち合わせ場所に着くと、すでに琴音と萌衣梨はそこにいた。
「あ…!かあさま!」
鬼灯が下ろしてやると、優杜希は琴音に向かって走っていった。
「かあさまっ!!」
『優杜希!』
琴音は走り寄ってきた優杜希をぎゅっと抱き締めた。
『すごく心配しましたよ!』
「ごめんなさいっ…!」
『でも、無事でよかったです。もう勝手に離れちゃダメですよ?』
「はいっ…!」
素直に返事した優杜希の頭を撫でつつ、琴音は鬼灯に視線を移す。
『鬼灯様、すみません…。私が目を離したばっかりに…。ありがとうございました。』
「いえ、よかったですよ。たまたま見つけられて。じゃあ私は仕事に戻りますね。」
『はい。頑張ってくださいね。』
そう言って笑う琴音の額に軽く口付けると、鬼灯は踵を返し、歩き始めた。
と、次の瞬間――
「とうさまっ…!」
優杜希が鬼灯の着物の裾を掴んだ。
「優杜希?」
鬼灯が振り返ると、優杜希は鬼灯を見上げる。
「あ、あの…ありがとう!」
「!!」
鬼灯は優杜希の行動に驚きつつも、また目線を合わせるようにしゃがむと、微笑みながら息子の頭を撫でた。
「いえ、無事でよかったです。」
その言葉と笑顔に、優杜希も微笑み返したのだった。
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