*夢か現か
『いってらっしゃいませ、鬼灯様。』
「「いってらっしゃい、とうさま!」」
3人の見送りに微笑みつつ、鬼灯は"いってきます"と家を出た。
子供が生まれてから、数年の月日が経ち、双子たちも成長していた。
そして――
「あう〜」
『あら、起きたのですか?璃乃愛(りのあ)。』
双子が生まれてから、また女の子、つまり妹が生まれていたのだった。
「かーたま」
『はい、何ですか?』
言いながら、琴音は優しく璃乃愛を抱き上げる。
すると、璃乃愛は嬉しそうにきゃっきゃっと笑った。
そんな璃乃愛の髪を撫でつつ、琴音は双子に視線を移す。
『さて、今日は部屋の片付けをしましょう。2人も手伝ってくださいね。』
「「はーい!」」
『じゃあまずは、自分の部屋を片付けてくださいね。』
琴音が言うと、2人は自分達の部屋に駆けていった。
それを見届けると、琴音は璃乃愛をベビーベッドに入れる。
『璃乃愛はここにいてくださいね。』
「あい!」
素直に返事した璃乃愛の頭を"いい子です"と撫でつつ、琴音はまず鬼灯の部屋へと向かった。
*
『えっと、これはこっちで、これは…』
収集癖のある鬼灯の部屋には物が多い。
それを琴音はせっせと片付けていた。
すると――
『あら…?』
見たことのない首飾りが出てきた。
『これは…何かしら?』
言いつつ、琴音はそれに手を伸ばした。
と、次の瞬間――
『!?』
首飾りが突然光りを放ち、琴音はその眩しさに思わず目を閉じた。
*
『んっ……』
目を開けると、そこは自宅ではなく外であった。
しかも回りには木がたくさんあり、ただ単に家の外というわけでもないらしい。
『あら…?ここは…森…?』
どうしてこんなところに…と首をかしげていると、向こうの方で息子の姿が見えた。
『あ…!優杜希…!』
琴音は慌てて立ち上がると、そちらに駆け寄った。
『待ってください優杜希!』
そう言って肩に手を置くと、少年が振り返った。
しかし――
『優杜希…じゃない…?』
その顔立ちはとても優杜希に似ていたが、纏う雰囲気が優杜希とは異なっていた。
「あの…どちら様ですか?」
少年に怪訝そうな顔で言われ、琴音はパッと手を離す。
『あ…ご、ごめんなさい。あなたが私の知っている子にそっくりだったので…つい。』
「あぁ、そういうことですか。」
『突然ごめんなさいね。』
「いえ。それより…ここらじゃ見かけない方ですね。」
『あ…えっと、色々あって、迷ってしまって…。』
((本当はここがどこだかも分からないのですが…こんな小さな子に迷惑をかける訳にもいきませんしね…。))
「そうなんですか?よければ案内しますよ。」
『いいのですか?』
「はい」
少年の言葉に琴音はにっこりと笑う。
『ありがとうございます。私は琴音と言います。』
「琴音さんですね。私は鬼灯と申します。」
『え…!?』
その名前に琴音は目を見開いた。
((鬼灯様と同じ名前に…優杜希にそっくりな顔立ち…まさか…))
そこで琴音は、自分がタイムスリップをしたのだと気づいた。
『まさか…でも…そうとしか…。』
突然、表情を青ざめさせた琴音に鬼灯は首をかしげる。
「どうされました?私、変なこと言いました?」
『い、いえ。何でもないです。』
「そうですか。では行きま…」
「おーい!鬼灯ー!」
名前を呼ばれ振り返ると、鬼灯の友人である烏頭と蓬が走り寄ってきた。
「お前、こんなとこで何して…ってうわ!すげぇ美人!!」
烏頭は琴音を見てそう言うと、鬼灯の腕を肘でつつく。
「なんだ?鬼灯〜!美人な姉ちゃんナンパしてんじゃねぇか〜!」
「鬼灯はそういうのに興味ないのかと思ってたよ。」
勘違いしている2人に、鬼灯はため息をつくと、"違いますよ"と否定し、説明した。
「あぁ〜なんだそういうことか。」
「まぁ鬼灯がそんなことするわけないか。」
「というわけなので、私は彼女にこの辺りの案内をしてきますね。」
「あ、待てよ!」
歩き出そうとする鬼灯の腕を烏頭が掴む。
「俺たちも一緒に行くよ!な、蓬!」
「うん、そうだね。俺たちも力になるよ。」
2人はそう言うと、琴音に向き直り、手を差し出す。
「俺は鬼灯の友達の烏頭。よろしくな、お姉さん!」
「俺は蓬です。よろしくお願いします。」
(そう言えば…鬼灯様のご友人に、烏頭さんと蓬さんという方がいらっしゃいましたね。)
そんなことを思い出しつつ琴音は、にっこりと笑みを浮かべると、彼らの手をとった。
『私は琴音と言います。どうぞよろしくね。』
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