番外編 | ナノ


*夢か現か






『いってらっしゃいませ、鬼灯様。』

「「いってらっしゃい、とうさま!」」


3人の見送りに微笑みつつ、鬼灯は"いってきます"と家を出た。


子供が生まれてから、数年の月日が経ち、双子たちも成長していた。


そして――


「あう〜」

『あら、起きたのですか?璃乃愛(りのあ)。』


双子が生まれてから、また女の子、つまり妹が生まれていたのだった。


「かーたま」

『はい、何ですか?』


言いながら、琴音は優しく璃乃愛を抱き上げる。


すると、璃乃愛は嬉しそうにきゃっきゃっと笑った。


そんな璃乃愛の髪を撫でつつ、琴音は双子に視線を移す。


『さて、今日は部屋の片付けをしましょう。2人も手伝ってくださいね。』

「「はーい!」」

『じゃあまずは、自分の部屋を片付けてくださいね。』


琴音が言うと、2人は自分達の部屋に駆けていった。


それを見届けると、琴音は璃乃愛をベビーベッドに入れる。


『璃乃愛はここにいてくださいね。』

「あい!」


素直に返事した璃乃愛の頭を"いい子です"と撫でつつ、琴音はまず鬼灯の部屋へと向かった。







『えっと、これはこっちで、これは…』


収集癖のある鬼灯の部屋には物が多い。


それを琴音はせっせと片付けていた。


すると――


『あら…?』


見たことのない首飾りが出てきた。


『これは…何かしら?』


言いつつ、琴音はそれに手を伸ばした。


と、次の瞬間――


『!?』


首飾りが突然光りを放ち、琴音はその眩しさに思わず目を閉じた。







『んっ……』


目を開けると、そこは自宅ではなく外であった。


しかも回りには木がたくさんあり、ただ単に家の外というわけでもないらしい。


『あら…?ここは…森…?』


どうしてこんなところに…と首をかしげていると、向こうの方で息子の姿が見えた。


『あ…!優杜希…!』


琴音は慌てて立ち上がると、そちらに駆け寄った。


『待ってください優杜希!』


そう言って肩に手を置くと、少年が振り返った。


しかし――


『優杜希…じゃない…?』


その顔立ちはとても優杜希に似ていたが、纏う雰囲気が優杜希とは異なっていた。


「あの…どちら様ですか?」


少年に怪訝そうな顔で言われ、琴音はパッと手を離す。


『あ…ご、ごめんなさい。あなたが私の知っている子にそっくりだったので…つい。』

「あぁ、そういうことですか。」

『突然ごめんなさいね。』

「いえ。それより…ここらじゃ見かけない方ですね。」

『あ…えっと、色々あって、迷ってしまって…。』


((本当はここがどこだかも分からないのですが…こんな小さな子に迷惑をかける訳にもいきませんしね…。))


「そうなんですか?よければ案内しますよ。」

『いいのですか?』

「はい」


少年の言葉に琴音はにっこりと笑う。


『ありがとうございます。私は琴音と言います。』

「琴音さんですね。私は鬼灯と申します。」

『え…!?』


その名前に琴音は目を見開いた。


((鬼灯様と同じ名前に…優杜希にそっくりな顔立ち…まさか…))


そこで琴音は、自分がタイムスリップをしたのだと気づいた。


『まさか…でも…そうとしか…。』


突然、表情を青ざめさせた琴音に鬼灯は首をかしげる。


「どうされました?私、変なこと言いました?」

『い、いえ。何でもないです。』

「そうですか。では行きま…」

「おーい!鬼灯ー!」


名前を呼ばれ振り返ると、鬼灯の友人である烏頭と蓬が走り寄ってきた。


「お前、こんなとこで何して…ってうわ!すげぇ美人!!」


烏頭は琴音を見てそう言うと、鬼灯の腕を肘でつつく。


「なんだ?鬼灯〜!美人な姉ちゃんナンパしてんじゃねぇか〜!」

「鬼灯はそういうのに興味ないのかと思ってたよ。」


勘違いしている2人に、鬼灯はため息をつくと、"違いますよ"と否定し、説明した。


「あぁ〜なんだそういうことか。」

「まぁ鬼灯がそんなことするわけないか。」

「というわけなので、私は彼女にこの辺りの案内をしてきますね。」

「あ、待てよ!」


歩き出そうとする鬼灯の腕を烏頭が掴む。


「俺たちも一緒に行くよ!な、蓬!」

「うん、そうだね。俺たちも力になるよ。」


2人はそう言うと、琴音に向き直り、手を差し出す。


「俺は鬼灯の友達の烏頭。よろしくな、お姉さん!」

「俺は蓬です。よろしくお願いします。」


(そう言えば…鬼灯様のご友人に、烏頭さんと蓬さんという方がいらっしゃいましたね。)


そんなことを思い出しつつ琴音は、にっこりと笑みを浮かべると、彼らの手をとった。


『私は琴音と言います。どうぞよろしくね。』
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