*神獣様はキューピッド
『こんにちは』
極楽満月の玄関を開け、琴音が中に入ると、中にいた白澤がにっこりと微笑み、手を振る。
「あ、いらっしゃ〜い琴音ちゃん!」
「どうも。」
そしてその後ろから入って来た鬼灯に白澤は"げ!"と顔をしかめる。
「やっぱりお前も一緒か…。」
「当り前でしょう。誰がこんな淫獣がいるところに妻を1人で来させますか。」
「何だと!?」
またいつもの通り言いあいを始めた2人を琴音が宥める。
「で、薬はできてるんでしょうね?」
「できてるよっ!!」
言いながら棚から薬を出すと、鬼灯に手渡す。
「ほら!」
「どうも。代金は後でお支払いします。」
薬を懐にしまう鬼灯を見ながら白澤は口を開く。
「ていうかお前はもっと僕に感謝すべきだよ!」
「は?」
白澤の発言に怪訝そうに眉間にシワを寄せる鬼灯。
「だってさぁ、誰のお陰で琴音ちゃんと結婚できたと思ってんの?」
「え?私自身ですけど。」
淡々と答える鬼灯に白澤は"ちっげーよっ!!"と叫ぶと、琴音の肩に手を回す。
「ねぇ琴音ちゃん、知ってる?あの時、僕がこいつの背中を押したから、こいつは琴音ちゃんの家まで行ったんだよ?」
『まぁ、そうだったんですか?』
「余計なことは言わないで下さい、白豚さん。あと気安く琴音に触るな。」
言うなり、鬼灯は金棒を白澤にぐりぐりと押し付けた。
しかし、それをどけつつ白澤は続ける。
「まぁ、本当はお前のことなんてどうでもよかったんだけどさ。閻魔大王に相談されてたし、仕方なく嘘まで言って腰抜け野郎を助けてやったってわけ。」
『そんなことがあったんですね…ありがとうございます、白澤様。』
嬉しそうに微笑みながらお礼を述べる琴音に白澤も"どういたしまして"と微笑む。
そんな琴音の腕を引っぱり、自身の腕の中に抱き寄せつつ、鬼灯は疑問を口にする。
「で、嘘って何です?」
「え?」
睨みつけてくる鬼灯に白澤は思わず"しまった"という顔をする。
「さっさと答えなさい。」
「え、えっとだから…琴音ちゃんの旦那さんになる予定だった男に変な噂があるって言ったろ?けど、あれはただのハッタリだったてこと…。」
語尾が小さくなりつつも真相を話した白澤を鬼灯は更に睨みつける。
「へぇ…そうだったんですね…。あなたごときの分際で、あの時私に嘘を…」
「べ、別にもういいだろっ!!そのお陰で結婚できたんだからっ!!」
(まぁ、ちょっと…ていうか大分後悔してるけど…。)
「でも事実は変わりませんよね?おい白豚、一発殴らせろ。」
低く言うと、鬼灯は白澤の胸倉を掴み、思いっきり殴り飛ばした。
「ぐはっ…!!ほんと手加減を知らねぇのかよお前は…っ!!」
「うるさいです。ま、ほんの少しの感謝の意をこめて今日はこのぐらいにしておいてやります。さ、帰りますよ、琴音。」
歩き出した鬼灯の背中に向かって、慌てて"待って下さい!!"と声をかけると、琴音は白澤に駆け寄った。
『白澤様、本当にありがとうございました。これからもどうぞ、よろしくお願いしますね。』
言いながら白澤にハンカチを渡すと、ふわりと微笑み、"では失礼します"と言って店を出た。
白澤は受け取ったハンカチをじっと見つめ、自身の鼻血を拭きとると、フッ…と笑みをこぼす。
「あぁ〜あ…やっぱり諦められないなぁ…。」
誰もいない店で1人、白澤はぽつりと呟いたのだった。
END
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