*それでも君を、(一)
翌日。
「あ、琴音さん、これ……」
隣を見るも、そこには琴音の姿はない。
(あぁ…そうでした。勤務期間はもう終わったんでしたね…。)
心の中で呟きながら、鬼灯は隣に琴音がいない寂しさを感じていた。
はぁ…とため息を吐きつつ、気分転換でもしようと、鬼灯は執務室を出た。
廊下に出ると、閻魔殿から出てくる白澤の姿が目に入る。
それをぼんやりと見ていると、こちらの視線に気づいた白澤が身構える。
しかし、何もしてこない鬼灯。
白澤は不審に思い、首をかしげる。
「おい。」
「はい。」
「お前…名前は…?」
「はい?」
鬼灯は怪訝そうに白澤を見る。
「白澤さん、ついに老化で認知症にでもなったんですか?」
「ちげーよっ!!!」
イライラしつつも、いつもの馬鹿にしたような発言に、白澤は少しばかり安堵する。
「で、あなた、何でここにいるんですか?」
「ちょっと閻魔大王に用事がね。あ、そうそう…昨日までここで働いてた子のことなんだけどさぁ。」
突然の琴音の話に鬼灯はピクリと反応する。
「あの子、結婚するんでしょ?」
「何であなたがそんなことまで知ってるんですか。」
睨みつけながら尋ねてくる鬼灯に、白澤は"まぁ、とりあえず聞きなよ"と話を続ける。
「ちょっとその子の結婚相手で、よからぬ噂を聞いたんだよね。」
「噂…?」
「そいつ、噂じゃかわいい女の子に近づいて仲良くなったらとある裏の集まりで競りにかけるんだってさ。」
「!!」
鬼灯はその言葉が意味することに、眉間にシワを寄せたが、琴音の言葉が頭に響く。
"その方はきっと、素敵な方なんだと思います"
「馬鹿馬鹿しい。そんな根も葉もない噂を信じるとは、とても神獣とは思えませんね。」
言うだけ言うと、鬼灯は踵を返し、元来た道を歩き始めた。
そんな鬼灯の背中に向かって白澤は口を開く。
「いいのかよ?本当にそれで。」
「…………」
「珍しく、その子のこと気に入ってたんじゃねーの?お前。」
「…………」
「もし本気だったんなら…死ぬ気で当たれよ腰抜け野郎。」
"ま、僕には関係ないけどね"と付け足す白澤。
鬼灯はぐっと拳を握ると、白澤の横をすり抜け、閻魔殿に向かって走り出した。
「ったく…手のかかる鬼だな…。」
1人取り残された白澤は苦笑しつつ、ぽつりと呟いたのだった。
To be continued…
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